急性虫垂炎の術後に抗生物質は必要か?

外科

手術後、的確な判断基準もなく、ダラダラと抗生物質を使用してしまうことがあります。しかし、それは医療費にとって大きな問題です。また、耐性菌の問題もあります。

では、急性虫垂炎の術後は全例に抗生物質療法が必要なのでしょうか?

また、必要な場合、どれくらいの期間が適切なのでしょうか?

今回はこの辺りの疑問について、エルサレムガイドラインを参考に見ていきたいと思います。

Diagnosis and treatment of acute appendicitis: 2020 update of the WSES Jerusalem guidelines

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成人

感染源の制御が達成されていない場合は抗生物質が術後も必要

前向き試験では、特に完全な感染源の制御が達成されていない場合、穿孔性急性虫垂炎の患者は術後にも抗生物質治療を受ける必要があることが実証されました。
Choらは患者の大規模コホートで、虫垂切除後の腹腔内膿瘍を防止するための抗生物質治療の役割は、腹腔内の感染源が制御されたか否かに関連しているようであることが示されました。著者らは、術後抗生物質療法の平均期間は、術後に腹腔内膿瘍を形成しなかったでは3.1日、膿瘍形成した群では3.3日であり、両者に有意差はないことを発見しました[222]。

McGillenらによる大規模な観察研究では、複雑性急性虫垂炎の患者は、単純性急性虫垂炎の患者と比較して、手術後に抗生物質を使用する可能性が有意に高くなりました(83.9%対33.3%; P <0.001)。
手術部位感染の発症は、糖尿病・術前画像での液体貯留・膿瘍・穿孔の存在と有意に関連していました[223]。

術後に抗生物質を使用するなら3〜5日間まで

抗生物質の最適なコースはまだ特定されていませんが、現在の証拠では、2日間の抗生物質と比較して、術後のコースが長くても手術部位感染を予防できないことが示されています。

複雑性急性虫垂炎の2,000人を超える患者を対象とした9件の研究を含むVan den Boomらによるメタアナリシスでは、抗生物質治療の期間が、> 5日間と≤5日間では、腹腔内膿瘍の発生率に統計的有意差があった(OR 0.36)ものの、 ≤3日間と> 3日間との間には統計的有意差がありませんでした(OR 0.81)[224]

複雑性急性虫垂炎での短期(24時間)と長期(> 24時間)の術後抗生物質療法の結果を比較する最近のランダム化比較試験には、合計80人の患者が登録されました。
合併症の全体的な発生率は、短期群と長期群でそれぞれ17.9%と29.3%でした(P = 0.23)。平均合併症指数は両者で差はなかったが(P = 0.29)、入院期間は短期群有意に短くなりました(61±34時間対81±40時間、P = 0.005)。
このランダム化比較試験の結果に基づくと、虫垂切除後の24時間の抗生物質療法は、複雑性急性虫垂炎の主要な転帰を悪化させることなく、入院期間を大幅に短縮し、大幅なコスト削減と抗菌薬管理のメリットをもたらすと言えます[225] 。

抗菌薬治療の中止は臨床所見と検査データに基づくべきですが、複雑性急性虫垂炎の虫垂切除後、成人患者の場合は3〜5日で十分です。
Sawyerらによる2015年のSTOP-IT試験が有名です。
適切な感染源の制御を達成された複雑性急性虫垂炎を含む腹腔内感染症の518人の患者では、固定期間(約4日)と長期期間(約8日)との間に、生理学的異常が改善されるまでの期間に差はありませんでした[226]。

小児

Litz らによって行われた後方視的レビューでは、診断時に抗生物質を投与された急性虫垂炎の小児患者における虫垂切除術の1時間以内の抗生物質投与が術後感染合併症の発生率を変化させなかったことを示しました[227]。

推奨される薬剤のレジメン

非穿孔性急性虫垂炎の小児は、単一の広域抗生物質を投与します。
第2世代または第3世代のセファロスポリンは、合併症のない急性虫垂炎の場合に使用できます。

複雑性急性虫垂炎では、大腸菌などのグラム陰性菌や、バクテロイデス種などの嫌気性菌に対して有効な抗生物質を診断が確定したら速やかに開始する必要があります。
ピペラシリン-タゾバクタム、アンピシリン-スルバクタムなどは、より広いスペクトラムが得られます。
穿孔性急性虫垂炎に対する最も一般的な組み合わせは、
アンピシリン-スルバクタム
アンピシリン+クリンダマイシン(またはメトロニダゾール)
セフメタゾール
セフトリアキソン+メトロニダゾール
などがあります[228]。
メトロニダゾールは、β-ラクタマーゼ阻害剤・カルバペネム・特定のセファロスポリンなどの広域抗生物質を使用する場合は推奨されません[229]。
3歳から18歳の24,984人の小児を対象とした後方視的コホート研究では、Kronmanらは、急性虫垂炎の小児のために、スペクトルの広い抗生物質とスペクトルの狭い抗生物質の有効性を比較しました。虫垂切除の当日または翌日に全身性広域スペクトル抗生物質(ピペラシリン±タゾバクタム、チカルシリン±クラブラン酸、セフタジジム、セフェピム、カルバペネム)を投与されました。主要なアウトカムは、手術部位感染による30日間の再入院または再手術でした。著者らは、単純性または複雑性急性虫垂炎の小児において、広域スペクトルの抗生物質は、より狭いスペクトルの薬剤よりも利点がないようだと報告しました[230]。

費用対効果

費用対効果の観点も重要です。
単剤または2剤による治療は3剤以上の併用療法と同等の効果を示すとされます。
セフトリアキソンとメトロニダゾールからなる二剤療法は、三剤療法と比較してより効率的で費用対効果の高いと報告されています。この方針が手術部位感染の増加に関連しているかどうかを判断するには、さらなる前向き研究が必要です[231]。

静注か経口か

術後抗生物質は、患者が退院可能な場合は経口で投与します。
Arnold らは、82人の小児患者を対象にランダム化比較試験を実施し、穿孔性急性虫垂炎に対する虫垂切除後の、合併症発生率や医療資源利用に関しての、静脈内投与と経口投与の抗生物質療法の効果を比較しました。 44人(54%)は静注グループに、38人(46%)は経口グループに無作為に割り付けられました。この研究では、入院期間(4.4±1.5対4.4±2.0日)、術後膿瘍発生率(11.6%対8.1%)、再入院率(14.0%対16.2%)に差は認めませんでした。一方、入院および外来の治療費は静注グループで高くなりました[232]。

他の後方視的コホート研究では、小児の穿孔性急性虫垂炎の虫垂切除後、経口抗生物質は静脈内抗生物質と比較して、同等の効果を示し、入院期間は短く、医学的診療の回数は少なくなることが報告されています[233]。

抗生物質の静脈内投与を受けた小児患者と比較して、経口抗生物質で治療された患者は、超音波検査の繰り返す確率(49.6%対35.1%)とPICC(末梢挿入中心静脈カテーテル)留置率(98.3%対9.1%)が統計的に低い一方で、腹腔内膿瘍の率は同等でした( 20.9%対16.0%)
さらに、経口抗生物質への早期移行により、同様の総抗生物質日数と再入院率で、入院期間の短縮と入院費用の削減が可能になります[234]。

まとめ

複雑性急性虫垂炎の患者(特に完全な感染源の制御が達成されていない場合)には、術後の広域抗生物質の使用が推奨されます。
抗生物質を必要とする成人患者にとって、24時間後の抗生物質の中止は安全であると思われ、入院期間の短縮と医療費の削減につながります。
適切な感染源の制御を受けた腹腔内感染症の患者では、固定期間(約3〜5日)の抗生物質療法後の経過は、長期期間後の結果と同様になります。
→十分な感染源の制御が得られた複雑性急性虫垂炎の場合は、術後3〜5日より長く抗生物質を投与しないことが推奨されます
[QoE:High;推奨の強さ:強い; 1A]。

複雑性急性虫垂炎の術後の小児に、術後7日未満の期間で経口的に抗生物質を投与することは安全であると思われます。
合併症のリスクの増加と関連していませんでした。
経口抗生物質への早期移行は、小児の複雑性急性虫垂炎の治療において安全で、効果的で、費用効率が高い戦略です。
→複雑性急性虫垂炎の小児では、術後早期(48時間後)に抗生物質を経口投与に切り替えることが推奨されます。治療期間は7日未満が適当です。
[QoE:中程度;推奨の強さ:強い; 1B]。

小児の単純性急性虫垂炎に対する虫垂切除後の術後抗生物質は、手術部位感染率を低下させる役割を果たしていないと思われます。
→単純性急性虫垂炎で虫垂切除術を受けた小児患者では、術後の抗生物質の使用は推奨されません。
[QoE:低;推奨の強さ:弱い。 2C]。

参考文献

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