急性虫垂炎の重症度を分類することの意義は何か【ガイドライン】

外科

急性虫垂炎をカタル性、化膿性、壊疽性…などと、その重症度に応じて分類することはご存知だと思います。

では、急性虫垂炎の重症度を、臨床所見や検査所見や術中所見などから重症度分類(グレーディング)することの意義は何なのでしょうか?

今回はこの辺りの疑問について、エルサレムガイドラインを参考に見ていきたいと思います。

Diagnosis and treatment of acute appendicitis: 2020 update of the WSES Jerusalem guidelines

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急性虫垂炎の重症度分類や抗菌薬の使用についてばらつきが大きい

急性虫垂炎の術中の診断には、病理学的診断としばしば不一致があります。
Strongらによる多施設コホート研究では、3,138人の患者が分析されました。
外科医と病理医の間の全体的な不一致が、症例の12.5%で見られました。
外科医によって正常であると評価された虫垂の27%は、病理学的評価で炎症が明らかになりました。また、炎症を起こした急性虫垂炎の9.6%は、肉眼的には正常でした[182]。
肉眼が顕微鏡に勝ることは難しいですが、これは少ないとは言えない頻度です。

抗生物質の治療についても不一致が見られます。
2018年のオランダの調査では、抗生物質を使用する患者の選択と、虫垂切除後の抗生物質治療の長さの両方の決定において、明確な基準が欠けていることが分かりました。
著者らは腹腔鏡検査中の急性虫垂炎のグレーディングにおける観察者間のばらつきを評価しました。
そして、急性虫垂炎のグレーディング(κスコア0.398)と術後抗生物質の処方(κスコア0.378)の両方についてばらつきが大きいことを示しました[183] 。

複雑性急性虫垂炎の定義は研究によって異なります。

穿孔の有無とは別に、

  • 穿孔していない壊疽性急性虫垂炎
  • 糞石や膿瘍の存在
  • 化膿性腹膜炎の有無

が含まれる場合と含まれない場合があります。

ほとんどの外科医は、『穿孔、腹腔内膿瘍、または化膿性腹膜炎を伴う急性虫垂炎』は、術後の抗生物質療法が適応となる、『複雑性急性虫垂炎』として定義しています。
ただ、虫垂切除後の抗生物質療法で使用する抗生物質にはばらつきが大きくなりました。[184]。

急性虫垂炎の術中グレーディングは患者の術後管理に影響します。
そのため、このような分類のばらつきは臨床転帰に影響を与える可能性があります。
そして、抗菌薬治療が無駄に長引くと、耐性菌が増えたり、医療コストの問題に繋がります。

重症度分類のシステム化により分類や管理を最適化できる

腹腔鏡下に虫垂を評価するために、2013年にHammingaらは、6つの基準からなるLAPP (Laparoscopic APPendicitis) スコアを提案しました。
単一センターの前向きパイロット研究(134人の患者)で、高い正と負の予測値(それぞれ99%と100%)を報告しました[185]。

WSESグレーディングシステム

2015年に、Gomesらは、臨床症状、画像、腹腔鏡所見を組み込んだ急性虫垂炎のグレーディングシステムを提案しました。
それは4つのグレードから成ります。

WSESグレーディングシステム
0 =正常に見える虫垂
1 =炎症性虫垂
2 =壊死
3 =炎症性腫瘤
4 =汎発性腹膜炎

この基準によって、急性虫垂炎の研究のより均一な患者層別化が可能になります。また、疾患のグレードに応じた最適な管理の手助けになります[186]。

2018年に、WSESグレーディングシステムは、44か国の世界116か国の外科部門で6か月間実施された前向き多施設観察研究で検証されました。

その結果によると、患者の

  • 3.8%がグレード0
  • 50.4%がグレード1
  • 16.8%がグレード2a
  • 3.4%がグレード2b
  • 8.8%がグレード3a
  • 4.8%がグレード3b
  • 1.9%がグレード3c
  • 10.0%がグレード4

でした。
患者の約半数がグレード1(炎症性虫垂)で、これがおそらく最も一般的な現状だと思われます。[186、187]。

AAST EGSグレーディングスコア

AASTは、2014年に、急性虫垂炎を含む8つの一般的に遭遇する胃腸症状について、臨床症状、画像、内視鏡、手術、および病理学的所見を含むいくつかの基準に基づいて、緊急手術一般疾患の重症度を分類するシステムを提案しました(グレードI(軽度)〜グレードV(重度)[188]。


AAST EGSグレーディングスコア

 

2017年、Hernandezらは、急性虫垂炎患者を対象とした大規模コホート研究でこのシステムを検証しました。そして、AASTグレードの増加が、開腹の有無、合併症の発生率、入院期間に関連していることを示しました。
術前画像によって決定された急性虫垂炎のAASTグレードは、手術所見と強く相関していました[189]。
2018年、同じ研究者らが、AASTグレーディングシステムが米国の小児集団における急性虫垂炎転帰に対応しているかどうかを評価しました。
結果は、AASTグレードの増加が合併症の重症度および入院期間の増加と関連しており、重症度と術後経過に関連がありました[190]。

さらに、AASTグレードの重症度の増加は、医療費の増加と関連していることが示されています。
入院期間は医療費と最も強い関連性を示し、AASTグレード、Clavien-Dindo 分類、年齢調整Charlsonスコア、外科的創傷分類がこれに続きました[191]。
2019年、Mallinenらによる研究も、複雑性急性虫垂炎と糞石の存在との既知の臨床的関連を裏付けました。この研究の目的は、2つの前向きコホート研究を用いて、CTで確認された合併症のない急性虫垂炎と、糞石を伴う急性虫垂炎の違いとを評価することでした。
年齢、性別、症状の持続時間を調整した多変量ロジスティック回帰モデルを使用して検証した結果、2つのグループ間で統計学的に有意な差を示した変数は、

  • 炎症の深さ≤2.8 mm(調整OR 2.18(95%CI 1.29–3.71、P = 0.004)
  • 微小膿瘍(調整OR 2.16(95%CI 1.22–3.83、P = 0.008)
  • 好酸球の数≥150/ mm2(調整OR 0.97(95%CI 0.95–0.99、P = 0.013)
  • 好中球の数≥150/ mm2(調整OR 3.04(95%CI患者の2つのグループ間で1.82〜5.09、P <0.001)

でした。

Sunshine Appendicitis Grading Systemスコア(SAGS)

Sunshine Appendicitis Grading Systemスコア(SAGS)を使用して、急性虫垂炎の重症度を簡単かつ正確に分類し、腹腔内採取のリスクを独立して予測し、術後抗生物質療法を導くことができます[192]。

Sunshine Appendicitis Grading Systemスコア(SAGS score)

手術所見は病理所見より臨床経過を予測できる

Farachらは、大規模な後方視的コホート研究の結果に基づいて、小児では、手術所見は、病理学的所見よりも、臨床経過を予測するものであると結論しました。
著者らは、術中所見と組織病理学的所見の間に不一致があることを発見しました。術中所見で単純性急性虫垂炎であるとされた患者の70%は、複雑性急性虫垂炎の病理所見を呈していました。しかし、非複雑性急性虫垂炎と術中所見で判断された患者の86%は、1.7%と低い合併症率で、ファストトラックプロトコル(同日退院)を遵守できました [193]。

まとめ

虫垂切除標本での予期しない所見の発生率は低いです。
術中診断だけでは、予期しない疾患を特定するには不十分です。現在利用可能なエビデンスに基づくと、日常的な組織病理学的な評価が必要です。
→虫垂切除後のルーチンの組織病理学診断か推奨されます
[QoE:中程度。推奨の強さ:強い; 1B]。

手術所見と術中所見のグレーディングは、成人と小児の両方で、病理組織学よりも、合併症罹患率、全体的な転帰、医療費と相関が高いようです。
術中グレーディングシステムは、同種の患者グループの特定に役立ちます。グレーディングに従うことで、最適な術後管理を決定し、医療資源の利用を最適化することができます。
→臨床的、画像的、手術的所見に基づいて、急性虫垂炎の術中グレーディングシステム(WSES 2015グレーディングスコアやAAST EGSグレーディングスコアなど)を日常的に採用することが推奨されます
[QoE:中程度。推奨の強さ:弱い。 2B]。

参考文献

182

Strong S, Blencowe N, Bhangu A. How good are surgeons at identifying appendicitis? Results from a multi-centre cohort study. Int J Surg. 2015;15:107–12.Return to ref 182 in article

183

van den Boom AL, de Wijkerslooth EML, Mauff KAL, et al. Interobserver variability in the classification of appendicitis during laparoscopy: Interobserver variability in classification of appendicitis during laparoscopy. Br J Surg. 2018;105:1014–9.

184

de Wijkerslooth EML, van den Boom AL, Wijnhoven BPL. Variation in classification and postoperative management of complex appendicitis: a European survey. World J Surg. 2019;43:439–46.

185

Hamminga JTH, Hofker HS, Broens PMA, et al. Evaluation of the appendix during diagnostic laparoscopy, the laparoscopic appendicitis score: a pilot study. Surg Endosc. 2013;27:1594–600.

186

Gomes CA, Sartelli M, Di Saverio S, et al. Acute appendicitis: proposal of a new comprehensive grading system based on clinical, imaging and laparoscopic findings. World J Emerg Surg. 2015;10:60.

187

Sartelli M, Baiocchi GL, Di Saverio S, et al. Prospective observational study on acute appendicitis worldwide (POSAW). World J Emerg Surg. 2018;13:19.

188

Shafi S, Aboutanos M, Brown CV-R, et al. Measuring anatomic severity of disease in emergency general surgery. J Trauma Acute Care Surg. 2014;76:884–7.

189

Hernandez MC, Aho JM, Habermann EB, et al. Increased anatomic severity predicts outcomes: Validation of the American Association for the Surgery of Traumaʼs Emergency General Surgery score in appendicitis. J Trauma and Acute Care Surg. 2017;82:73–9.

190  Hernandez MC, Polites SF, Aho JM, et al. Measuring anatomic severity in pediatric appendicitis: validation of the american association for the surgery of trauma appendicitis severity grade. J Pediatrics. 2018;192:229–33.

191

Finnesgard EJ, Hernandez MC, Aho JM, et al. The American Association for the Surgery of Trauma Emergency General Surgery Anatomic Severity Scoring System as a predictor of cost in appendicitis. Surg Endosc. 2018;32:4798–804.

192

Reid F, Choi J, Williams M, et al. Prospective evaluation of the Sunshine Appendicitis Grading System score: Sunshine Appendicitis Grading System score. ANZ J Surg. 2017;87:368–71.

193

Farach SM, Danielson PD, Walford NE, et al. Operative Findings Are a Better Predictor of Resource Utilization in Pediatric Appendicitis. J Pediatric Surg. 2015;50:1574–8.

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