単純性虫垂炎の手術はどれくらい遅延が許容されるか【ガイドライン】

外科

単純性急性虫垂炎に対して、手術する場合、緊急度はあまり高くなく、夜中に入院しても、手術は翌日することは一般的だと思います。

では、一体どれくらいまで合併症のリスクを増やさずに手術のタイミングを遅くすることは可能なのでしょうか?

今回はこの辺りの疑問について、エルサレムガイドラインを参考に見ていきたいと思います。

Diagnosis and treatment of acute appendicitis: 2020 update of the WSES Jerusalem guidelines

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穿孔性と単純性急性虫垂炎は別物であるという説

穿孔性急性虫垂炎は単純な急性虫垂炎とは異なる疾患であるという仮説があります。つまり、単純性虫垂炎という疾患が単純に悪化・進行することで穿孔をきたすのではないという仮説です。
この仮説は、van Dijkらによるメタ分析である程度支持されています。
この研究では、単純性虫垂炎の虫垂切除を、入院後、最大24時間まで遅らせても、穿孔の確率、術後合併症率、手術部位感染などのリスクは増えませんでした。
プールされた調整済みオッズ比では、虫垂切除術が7〜12時間または13〜24時間遅れた場合でも、これらのリスクが有意に増えることはありませんでした。
また、調整されたデータではありませんが、入院後24〜48時間の遅延も、これらのリスクを増やしませんでした[22]。

手術のタイミングと合併症のリスク

American College of Surgeons NSQIPのデータは、手術が入院1日目または2日目に行われた場合では、同様のアウトカムを示しました。
一方、入院3日目に行われた虫垂切除術は、30日死亡率の増加(0.6 %)およびすべての主要な術後合併症の増加(8%)が見られました。→比較データ:「入院1日目(0.1%、 3.4%)、2日目(0.1%、 3.6%)」
ASA -PSによって評価されたベースラインの身体状態が低下した患者では、手術が入院3日目に延期されたときにかなり不良な結果(死亡率1.5%、主要な合併症14%)でした。
ロジスティック回帰分析によると、重大な合併症の予測因子は、より高いASA -PSと開腹操作の2つでした[128]。

Elniel らによる研究では、穿孔性急性虫垂炎のリスクが、症状が出現して60〜72時間の場合と比較して、72時間後に有意に増加しました。
著者らは、発症後72時間が近づいている場合、(まだ明らかに穿孔していなくても)手術を優先することが合理的であるかもしれないと主張しました[129]。

妊婦の場合

急性虫垂炎が疑われる妊婦の大規模な回顧的シリーズ(単純性急性虫垂炎75.9%、複雑性急性虫垂炎6.5%、正常虫垂17.6%)では、以下のようにまとめられました。
最初の超音波検査で57.9%の患者で診断されたが、55.8%の患者はさらなるエコーが必要となりました。
このコホートでは、観察期間中に繰り返し超音波検査を実施すると、診断率が向上しました。
手術の遅延は母体または胎児の安全性に影響しませんでした。
このようなエコーを繰り返すアルゴリズムは、母体または胎児の合併症のリスクを増加させることなく、診断率を向上させました。
手術が遅延した患者では、穿孔性虫垂の増加率はありませんでした。一方で、正常虫垂に対して虫垂切除が実施(negative appendectomy)された割合は17.7%でした[130]。

小児の場合

小児では、症状が出現してから24時間以内に虫垂切除術を行った場合、穿孔または有害な転帰のリスクは増加しませんでした[131]。
同様に、Almstromらによる多変量ロジスティック回帰分析でも、手術までの時間の増加は、病理学的穿孔のリスク、術後創部感染、腹腔内膿瘍、再手術、再入院の増加とは関連しませんでした[132]。

NSQIP-Pediatricsのデータは、救急外来での診察から16時間、または入院から12時間までの手術の遅延は、創部感染のリスクを増加させないことを示しました。
手術部位感染を発症しなかった患者と比較して、発症した患者は、救急部門のトリアージから虫垂切除までの時間(11.5時間vs 9.7時間、P = 0.36)、入院から虫垂切除までの時間(5.5時間vs 4.3時間、P = 0.36)に統計学的に有意差はありませんでした。
手術部位感染の独立した危険因子は、急性虫垂炎の複雑化、症状の持続期間の延長、敗血症や敗血症性ショックの存在でした[133]。

Gurienらは、急性虫垂炎の入院から6時間(即時群)、8時間(早期群)、および12時間後(遅延群)に虫垂切除術を受けた484人の小児のデータをレトロスペクティブに分析しました。
入院から手術までの平均経過時間は394分でした。
手術部位感染、虫垂穿孔、術後腸閉塞は、早期群と遅延群の間で類似していました。
非穿孔性急性虫垂炎では、遅延群と即時群の手術部位感染には統計学的有意差は見られませんでした。
入院から手術までの時間は、穿孔とは関連せず、入院時の白血球数が穿孔の有意な予測因子でした(OR 1.08; P <0.001)[134]。

最近、American Pediatric Surgical Association Outcomes and Evidence-Based Practice Committeeは、1970年1月1日から2016年11月3日までの間に発表された文献のシステマティックレビューを行いました。
そして、小児の急性虫垂炎の、虫垂切除までの時間に関する推奨事項が作成されました。
そこでは、症状出現後24時間以内に手術した場合は、穿孔または有害な転帰のリスクの増加と関連しないとされました[135]。

小児の複雑性急性虫垂炎

複雑性急性虫垂炎に関しては、「最初に抗菌薬で炎症を軽快させてから手術する」方針と、「即時手術」の方針の2つの意見が対立しています。
1年間のフォローアップによる研究では、虫垂切除が遅いと即時手術よりも合併症を起こすリスクが高いと報告されました。
このデータから、早期に虫垂切除術を行うことが複雑性急性虫垂炎の最良の管理であると結論されています[136]。

まとめ

入院後24時間以内の手術遅延は、合併症のない急性虫垂炎では安全であり、成人患者の合併症や穿孔率を増加させない。
合併症のない急性虫垂炎の場合は、手術までの遅延を最小限に抑えつつ、患者の希望(患者の通院の簡便さなど)を考慮して手術を計画することができます。
虫垂炎がはっきりしない妊娠中の患者に対して、経過観察とエコーを繰り返すことによる、短期間の手術の遅延は許容可能です。これによって、母体と胎児の合併症のリスクは増加しないようです。

→合併症のない急性虫垂炎の場合は、入院後24時間以内に腹腔鏡下虫垂切除術を計画し、手術までの遅延を最小限に抑えることが推奨されます
[QoE:中程度。推奨の強さ:強い; 1B]。

 

合併症のない急性虫垂炎の虫垂切除を入院後最大24時間遅らせることは、複雑性虫垂炎への進展、術後の手術部位感染、合併症などの危険因子ではないようです。
一方で、入院24時間後以降に虫垂切除を行うと、合併症などの有害事象が発生するリスクが高くなります。
→手術が必要な急性虫垂炎に対して、入院から24時間以上は虫垂切除を遅らせないことが推奨されます
[QoE:中程度。推奨の強さ:強い; 1B]。

小児の合併症のない急性虫垂炎の場合、発症から24時間以内に虫垂切除術を行った場合、穿孔や有害な転帰のリスクが高くなることはありません。
早期虫垂切除術が、小児の複雑性急性虫垂炎の良い転帰につながるようです。
→単純性急性虫垂炎の小児患者に対しては、24時間を超えて虫垂切除を遅らせないことが推奨されます。
複雑性急性虫垂炎の小児患者の場合は、8時間以内の早期に虫垂切除術を実施することが推奨されます。
[QoE:低;推奨の強さ:弱い; 2C]。

参考文献

22.

van Dijk ST, van Dijk AH, Dijkgraaf MG, et al. Meta-analysis of in-hospital delay before surgery as a risk factor for complications in patients with acute appendicitis: In-hospital delay before surgery and complications after appendicectomy. Br J Surg. 2018;105:933–45.

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