この記事では、
こんな疑問に答えます。
デルタ吻合のYouTube動画は以下をご覧ください。
最初にざっくりとイラストを順に掲載しておきます。
この記事を読めば、デルタ吻合についての理解が深まり、吻合の安定感が増すと思いますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
ちなみに、おぺなかさんのイラストが綺麗なので、こちらもぜひご覧ください。
デルタ吻合(Billroth I法)
腹腔鏡下幽門側胃切除術の再建方法の一つです。
ステープラーを2回使用するだけで、残胃と十二指腸が吻合できます。学生実習で初めて見た時めちゃくちゃ驚きました。鉗子は全部複製して描いてます。パーツとして別で作っておいていろんなイラストに活用すると楽です! pic.twitter.com/ymwciRKCEO
— おぺなか (@ope_naka) August 1, 2021
デルタ吻合とは
自動縫合器を使って、残胃後壁と十二指腸後壁とを吻合します。
デルタ吻合は、吻合口の形が三角形になることが名前の由来です。
デルタは、ギリシャ文字のひとつで、Δと記します。
Δとデルタ吻合の吻合口の形が似ているというわけですね。
デルタ吻合は、腹腔鏡手術の発展によって、腹腔内で完結できる再建法が必要となり、金谷誠一郎らによって2002年に報告されました。
その後、ダビンチなどのロボットを用いた手術においても活用されています。
デルタ吻合と三角吻合の違い
ちなみに三角吻合というよく似た名前の吻合法もあります。
三角吻合は、結腸の手術などで用いられる端々吻合の一種です。
デルタ吻合は、機能的端々吻合(FEEA)の一種です。
そのため、三角吻合とデルタ吻合は本質的に違います。
デルタ吻合の手術手技
それでは、実際のデルタ吻合の方法をイラストを交えつつ、手順を追って解説していきたいと思います。
十二指腸の切離
幽門下の郭清後、十二指腸の頭側の間膜にステープラーを通す隙間を開けておきます。
そこにステープラーを挿入して十二指腸を切離するわけですね。
ここで大切なポイントがあります。
それは、十二指腸が後壁→前壁方向に切れるように、90度ローテーションさせた状態で切離することです。
ここで十分に捻ってから切離しておかないと、後の残胃・十二指腸吻合のステープルラインと、この十二指腸の切離ラインが平行になってしまい、血流不全の原因となってしまうので注意が必要です。
後壁→前壁方向に切離します。
胃の後壁および前壁をそれぞれ把持して、90度ローテーションさせてから切離します。
助手の右手で胃の後壁を持ち、助手からみて手前に引いてローテーションします。
助手の左手で胃の前壁を持ち、助手からみて奥に押してローテーションします。
切離ラインはなるべく幽門直下に設定します。
十二指腸が短くなりすぎると吻合部に緊張がかかったり、吻合の際の可動性が悪くなるので、
ステープラーのジョーを軽く閉じて幽門側に滑らせていき、引っ掛かったところで切離すると良いでしょう。
当然のことながら、ステープラーが胃管を噛み込んでいないかどうか、ファイア前に確認して下さい。
デルタチェック
胃の切離後、吻合に入る前に、通称「デルタチェック」を行います。
十二指腸後壁と残胃大弯を膵頭部辺りで交差させてみて緊張がないことを確認するのがデルタチェックです。
デルタチェックは、吻合が緊張なく行えるかどうか判断するスクリーニング法です。
十二指腸断端と残胃断端を膵頭部辺りで交差させてみて、緊張が過度にならないか確認します。
もし緊張が強ければ、剥離できる癒着は剥離します。それでも緊張が強ければ、無理せずルーワイ法やビルロート2法に変更しましょう。
各断端に小孔を設ける
十二指腸後壁と残胃大弯に小孔を設けます。
まず、術者が、ステープルラインの端を挙上します。
次に、助手に、小孔から内容物が漏れないように小孔作成予定部の付近を鉗子でクランプしてもらいます。
その上で、ステープルラインのすぐ傍を狙って、壁を切って、小孔を作成します。
十二指腸は壁が薄いので、孔が大きくなり過ぎないように注意します。
ステープラーが挿入できるだけの、必要最低限の大きさ(1cm程)が理想的です。
胃は壁が厚いので、超音波凝固切開装置のアクティブブレードを深く突き刺して、一気に全層切るようにします。
下手に少しずつ切るとなかなか粘膜まで切れず、孔が大きくなり過ぎる恐れがあります。
残胃側の孔は1.5cm程の大きさが良いです。
小孔を設けたら、吸引管を装備して、助手のクランプを緩めてもらいつつ、内腔の吸引を行います。
癌を播種させないという意気込みで、内容物をこぼさないという意識で行ってください。
残胃へのステープラー挿入
吻合時は45mm長のカートリッジを用います。
術者が残胃のステープルラインをそれぞれの手で2箇所把持して、直線化し、ステープラーと残胃との軸を合わせます。
軸が合ったら、ステープラーをゆっくり奥に挿入し、残胃内にステープラーを挿入します。
残胃側には、カートリッジフォーク(太い方)を挿入しましょう。
続いて、後壁で吻合できるように、残胃をローテーションさせます。
術者は両手でステープルラインをもっているはずなので、そのまま前壁側に持ち上げつつ助手側に押すようにしてローテーションを行います。
ステープラーは必要に応じて少し回転させ、後壁で吻合されるようにしておきます。
良い角度までローテーションできたら、いったんステープラーを甘噛みして残胃とステープラーとの関係をキープしておきます。
その上で、助手は、小孔から少し離れたところのステープルラインを把持します。
ここからはこの助手の右手1本で、残胃が抜けないようにしつつローテーションが戻らないようにしなければなりません。
助手が右手でステープルラインを把持したら、術者はステープルラインから両手を離します。
十二指腸へのステープラー挿入
まず、助手が、残胃からステープラーが抜けないことと、残胃のローテーションが戻らないことを意識しつつ、ステープラーと残胃を、吻合を行う場となる膵頭部前面まで持ってきます。
ステープラーを甘噛みしたままにしておくと確実です。
良い位置まで来たらステープラーのジョーを再度開いて、助手の操作が完了するのを待ちます。
ここからは下手に助手は動かないようにします。
術者は十二指腸をアンビルフォークに被せます。
助手は残胃がステープラーから抜けないように注意して下さい。
続いて、術者が、十二指腸断端のステープルラインの両端をそれぞれ持って、十二指腸断端を直線化して軸を合わせつつ、「靴下を履かせるように」十二指腸内にステープラーを挿入していきます。
「ステープラーを十二指腸内に差し入れる」のではなく、「十二指腸の方をステープラーに被せていく」という意識が重要です。
吻合
ステープラーが良い位置まで挿入されたら、残胃および十二指腸のそれぞれの後壁が吻合部となるように、術者は十二指腸をローテーションさせます。
両者の後壁がきちんと合ったところでファイアします。
調整中に、ステープラーが抜けてきて挿入が浅くなりやすいので気をつけて下さい。
共通孔の閉鎖
まず3針糸をかけて、共通孔を仮閉鎖します。
ステープルラインがずれるように、真ん中をまず縫うのがお勧めです。
また、真ん中を先に縫っておくと、術野が展開しやすく、手前と奥も縫いやすくなります。
必ず、漿膜〜粘膜まで、全層取りこぼさないで縫いましょう。
仮閉鎖が済んだら、60mmのカートリッジで共通孔を閉鎖します。
かけておいた糸を挙上して、ステープラーとの軸が合うように調整します。
どこか1カ所の糸を挙上しすぎてもうまくいかないので、術者と助手がコミュニケーションを取りあって、バランスよく挙上しましょう。
「手前上げて、奥を下げて」などの声かけを適宜行うことが大切です。
60mm1回で閉鎖できることも多いですが、足りなければもう1発45mmなどを追加しましょう。
出来上がり
デルタ吻合の出来上がりの状態。
共通孔を閉鎖して切り落とした断端が全層取れているかを確認しましょう。
もし不安な点があれば手縫い縫合を追加して補強します。
また、膵頭部にステープルが接触しない方が良いという意見もあり、膵と接触するステープルラインは漿膜筋層縫合を用いて埋没する方が良いかもしれません。
まとめ
デルタ吻合は腹腔内で鉗子を用いて行う方法であるため、ひとつひとつの操作を、手順を追って積み重ねていく必要があります。
行うべき操作が完遂されないままに次の操作へと流れていくと、最終的には大きな綻びとなってしまいます。
ステップバイステップで着実に操作を進めましょう。
また、デルタ吻合は助手にも一定以上のスキルが必要されるため、チームとしてこの吻合法に習熟していることが求められます。
事前にビデオやテキストでしっかり予習してから挑みましょう!
筆者からのお願い
みなさんとのコミュニケーションが私のモチベーションです!
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参考
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12168979/