吻合といえばファンクショナル(FEEA)!
と言うほど、機能的端々吻合は頻繁に実施される吻合です。
消化器外科医は全員が必ずマスターしておく必要があります。
この記事では、
こんな疑問に答えます。
はじめにイラストでざっくりとした流れを確認してください。
この記事を読めば、機能的端々吻合の手順が理解でき、安定した方法で吻合ができるようになります。
ぜひ最後まで読んでみてください。
機能的端々吻合(FEEA)には、以下の3つのやり方があります。
- Closed法
- Semi-Closed法
- Open法
近年最も汎用されているのがClosed法です。切離に2回、吻合に1回、共通孔閉鎖に1回と、リニアステープラー(自動縫合器)を合計4回使用します。
時間短縮やコスト削減などの目的で時折行われるのがSemi-Closed法です。吻合に1回、切離及び共通孔閉鎖に1回と、ステープラーを合計2回使用します。
Open法は術野の汚染のリスクなどから、あまり行われていません。切離はメスやハサミで行います。そこからはClosed法と同様に、吻合に1回、共通孔閉鎖に1回と、ステープラーを合計2回使用します。
この記事では、最も頻用されるClosed法を中心に解説しています。
Closed法による機能的端々吻合の手順・方法
腸管の授動
吻合を安全かつ確実に行うために、事前に十分に腸管を授動しておく必要があります。
授動が不十分だと、視野が十分に確保できなかったり、組織に無理な力がかかってしまいやすく危険です。
十分な授動の目安としては、以下を確認しましょう。
- 吻合したい組織同士が緊張なく接触できること
- 吻合の股の縫合補強まで見越して、体外へ引き出した時に、切離予定線から15cmくらい離れた部分まで良好に視認できること
腸管の体外への引き出し
腹腔鏡手術であれば、小開腹して、切開創から腸管を体外へ引き出します。
予定手術で、標準的な体格で、腫瘍も大きくなければ、皮膚切開は5cmほどで十分です。
もし、肥満体型で腸管膜が厚い・腫瘍が大きいなどの要因があれば、必要なだけ切開を延長しましょう。
小開腹をできるだけ小さくすることに外科医はプライドをかけがちですが、数cmの差に対した意味はありません。
そんなことよりも安全確実に吻合することの方が何倍も大切です。
肥満患者では、腹壁の縫合閉鎖も難儀なので、キズは小さくしたいのが本音ですが、ここをケチるとかえって大変です。
どうやったって肥満患者の手術は大変なので躊躇せず諦めましょう。
右半結腸切除の時にSurgical trunkを引き抜いて損傷することがあるので、とくに十分に授動しておきましょう。
もし不安があるなら、副右結腸静脈は先に切離しておきましょう。
術野の汚染を最小限にとどめるために、ミクリッツガーゼなどで、引き出した腸管以外の術野をなるべく覆っておきます。
切離予定線の決定
切離予定線は、癌の手術であれば、腫瘍から10cm以上または、主な栄養血管となる辺縁動脈から5cm以上のマージンを確保して決定します。
消化管穿孔などの場合には、最低限のみの切除で良いので、腸管壁の状態が保たれている部分で、穿孔部になるべく近い部分に切離予定線を設定しましょう。
腸間膜の処理
腸管膜の処理とは、切除する部分への血流は遮断され、吻合部までの血流は良好に保たれるように、腸管膜を切開・切離することです。
吻合の成否には、吻合部に無駄な緊張がかからないことはもちろん、吻合部の血流が良好に保たれていることも重要です。
ポイントは、直動脈を見極めて辺縁動脈を処理することです。
温存する直動脈と犠牲にする直動脈の境をきちんと見極めます。
その上で、温存する直動脈の根本は狭窄・閉塞させずに、正確に辺縁動脈を結紮切離することが大切です。
腸管の切離
腸管をリニアステープラーで切離します。
腸管膜側→腸管膜対側へと、腸管の長軸と直交するラインでステープラーを挿入して切離します。
お作法的には、腸管膜側からステープラーを挿入した方がお行儀が良いです。
その理由は、腸管膜対側に小孔を設けるためです。
腸管膜側からステープラーを挿入すれば、もしも端までステープラーがかかりきらなくても、どうせ後に小孔を開ける側なので、問題ないからです。
また、腸間膜対側では、わずかに残存する側へと斜めに切離することもよく行われます。
一応、腸間膜対側の血流が乏しくなるリスクを最大限に避けるためです。
腸管の断端に小孔を開ける
孔を開ける前に、糞便が溢れてこないように、断端から10cmくらい離れたところをドワイヤン(腸鉗子)などで遮断しておきます。
口側および肛門側の腸管のステイプルラインのすぐ傍で、腸間膜の反対側に小孔を設けます。
腸間膜対側に穴を開けるのは、腸管壁内の血管をなるべく切断しないようにするためです。
腸管は伸びたり裂けたりしやすく、穴が広がりやすいため注意します。
小孔はなるべく小さくした方が、最後の穴の閉鎖がしやすくなります。
腸管内を清拭
吻合部に便や癌細胞を噛みこまないように、吻合部となる腸管の粘膜は十分に清拭しておきます。
自動縫合器(ステープラー)の挿入
腸管同士の機能的端々吻合の場合は、自動縫合器は60mmのものを使用することが多いです
(もちろん、80mmのステープラーを使用しても構いません)
腸管断端のステープルラインをアリス鉗子などで把持して、腸管を少し挙上し、直線化します。
ステープルラインから最も遠くなる小孔の縁を鑷子で把持し、小孔を広げます。
その後、小孔から、腸管内へステープラーを愛護的に挿入します。
これはしばしば「靴下を履かせるようなイメージで」と例えられます。
術者がステープラーを腸管に突っ込むのではなく、助手が腸管をステープラーに被せるイメージでやりましょう。
抵抗がある時は絶対に無理をしてはいけません。
いったんステープラーを抜いてやり直します。
無理に突っ込むと、小孔が裂けたり、ステープラーが粘膜下層に迷入したりします。
ステープラーの挿入は、2つ同時に行わずに片方ずつ順番に行います。
最初に、より自由に動く方の腸管から挿入し、動きづらい腸管には後から挿入しましょう。
ステープラーのアンビルフォーク(細い方)は小孔が小さい方へ、カートリッジフォーク(太い方)は小孔が大きい方へ挿入します。
2つの腸管を合わせた時に、腸間が捻れていないか重々確認してください。
ファイアする
吻合口がちょうど腸間膜の反対側にくるように、助手が腸管壁を合わせます。
不安なら数針縫合して、腸間膜対側同士を固定しても良いです。(どうせ後で縫合補強するところ)
ステープラーを完全に噛み合わせてから、ファイアするまでに最低15秒間待ちます。
これによって組織の厚みが薄くなり、良型のステープル形成、縫合不全の現象につながります。
この間に、腸間膜が捻れていないか、腸間膜対側での吻合になっているかなどを再確認しておきましょう。
準備が整ったらファイアします。
ここで手術チームで声を合わせて「ファイア〜!」と合唱するのが教科書には書いていない不文律ですね(笑)。
(『ファイアする』は英語の【fire:引き金を引いて発砲する】という動詞に由来します。転じて、外科用語で、ステープラーの引き金を引いて、吻合することを指すようになりました)
ファイアは、浮腫などで組織が厚い場合にはゆっくり時間をかけて行った方が、良型のステープル形成ができます。
膵臓の切離のように、ゆっくりとpre-compressionして、ゆっくりとナイフを進めていく感じです。
また、ファイア後は、すぐにナイフを戻さずに、15秒間ほどじっと待つことで、良型のステープル形成ができます。
もちろん大前提として、各種ステープラーの使用方法は習熟しておいてくださいね。
内腔の確認
2つの腸管同士が吻合されたら、そっと吻合口の内腔側を確認しましょう。
吻合部のステープルライン上に出血がないか見ていきます。
もし出血があれば、無理に焼かずに、3−0吸収糸で縫合して止血します。
共通孔の閉鎖
まずは吻合した際のステープルラインがV字型に開くように共通孔を直線化して仮閉鎖します。
この時、最初の腸管切離の際のステープル同士が重ならないように5mm以上ずらして下さい。
ここをずらしておかないと最後の共通孔閉鎖のステープルラインも合わせて三重になってしまい、縫合不全のリスクとなります。
また、ステープルラインが癒着して、内腔が狭窄することもありえます。
仮閉鎖はアリス鉗子を用いても良いし、支持糸をかけて吊り上げても良いです。
この時、外から見える漿膜筋層だけでなく、内腔側にある粘膜まで含めて、腸管壁の全層を吊り上げて仮閉鎖することが重要です。
共通孔の大きさにもよりますが、だいたい3〜4箇所吊り上げることで仮閉鎖することが多いです。
仮閉鎖が済んだら、ステープラーを用いて吊り上げた部分を切除しつつ共通孔を閉鎖します。
吻合口が狭窄しないように注意してください。
吊り上げた糸ないしはアリス鉗子がギリギリ切除される程度がベストです。
共通孔が閉鎖されたら、切り落とされた吊り上げ部分をしげしげと見て、全層で切れているか確認します。
ステープルラインにおいて、漿膜筋層が脱落していなければOKです。
もし脱落していれば、縫合不全が危惧されるので、その部分に相当する箇所に、3−0吸収糸で漿膜筋層縫合を追加して補強しましょう。
手縫い縫合による補強
機能的端々吻合は、構造的に、吻合部の股の部分が弱いので、そこは必ず漿膜筋層縫合をかけて補強します。
通常は2針手縫い縫合を追加します。
また、ステープルラインが重なる部分も、漿膜筋層縫合を追加して補強することが多いです。
ステープルラインは後々強固な癒着を生みやすいので、全て漿膜筋層縫合をかけて埋没することが多いです。
(全て埋没することは必須ではありません)
腸間膜欠損部の閉鎖
内ヘルニアの原因となるため、可能であれば腸間膜欠損部は連続縫合による閉鎖を追加した方が良いでしょう。
(内ヘルニアは、腹腔内臓器が、腹腔内の隙間や穴に入り込んでしまう状態。外ヘルニアは、腹腔内臓器が、腹腔内外に脱出してしまう状態)
一般的に、結腸-結腸吻合では背側の後腹膜に癒着することが多いので、可能な範囲で閉鎖します。
小腸-小腸吻合では内ヘルニアの原因になりやすいため必須です。
横行結腸癌の手術では、腸間膜起始部の腸間膜欠損部がヘルニア門になり、壮大な内ヘルニアを起こすことがあるので、可能な限り閉鎖します。
小腸は、指1本入る隙間があれば嵌頓しうるので、結節縫合よりは連続縫合がベターです。
Semi-Closed法による機能的端々吻合の手順・方法
セミクローズド法は、ステープラーの長さが必要なため、旧式の古いステープラーが使われることが多いです。
腸管の授動〜腸間膜の処理
腸間膜の処理まではクローズド法と同様なので割愛します。
ステープラー挿入用の小孔作成
最初に糞便汚染を避けるために、腸管を鉗子で遮断します。
残す側は切離予定線から10cmほどのところを腸鉗子で遮断します。
切除側は切離予定線の1〜2cmくらいのところを、適当にペアンなどで遮断します。
腸間膜の対側に5〜10mmほどの小孔を作成します。
ここは切除されるので、電気メスなどで切ってOKです。
腸管内を清拭→ステープラーの挿入→ファイア→内腔の確認
ここの注意点もクローズド法と同様なので割愛します。
共通孔の閉鎖および腸管の切除
セミクローズド法では、このプロセスは1本のステープラーによって同時に行われます。
切離範囲が広くなるので、長いステープラーが有利です。
旧式の手動でキコキコやるやつを使いましょう。
吻合時のステープルラインを少しズラす
共通孔を全層で仮閉鎖
吻合口を狭窄させない
この辺りの注意点はクローズド法と同様です。
手縫い縫合による補強〜腸間膜欠損部の閉鎖
クローズド法と同様なので割愛します。
Open法による機能的端々吻合の手順・方法
オープン法は、腸管の切離をメスやハサミで行う他はほぼクローズド法と同様です。
腸管の切離
切離より前の手順は説明が重複するので省略します。
切離予定線から10cmほど離れた残存側は腸鉗子で、切離予定線から1〜2cm離れたところはペアンなどの捨て鉗子で遮断します。
切離予定線通りに腸管を切離し、標本を摘出します。
教科書的には切離には、雑剪やメスなど、汚れて清潔野から下ろしても良い器具を使用します。
個人的には出血がうっとうしいので、電気メスでジャーっと切っても良いと思います(刃は破棄交換)。
どうせハサミで切っても焼くし…断端は切除するし…。そこのところは、その手術のリーダーのやり方に従うのが正解です笑
吻合口作成以降
以降の手順はクローズド法と同様なので省略します。
まとめ
最後に、この記事の内容のまとめです。
機能的端々吻合に限ったことではないですが、ひとつひとつの操作を丁寧に確実に行うことが大切です。
この記事を参考に安全確実な吻合に努めて下さい。
さらに吻合に興味がある方は、こちらも参考にして下さい。
筆者からのお願い
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参考
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5382030/
https://cancer.qlife.jp/colon/colon_feature/article5855.html
Steichen FM : The use of staplers in anatomi- cal side-to-side and functional end-to-end enteroanastomoses. Surgery 64: 948-953, 1968
Chassin J L, Rifkind K M, Turner J W : Errors and Pitfalls in Stapling Gastrointestinal Tract Anastomoses. Surg Clin North Am 64: 441- 459, 1984
Osstericher R, Lally K P, Barrett M et al: Anastomotic obstruction after stapled enter- oamastomosis. Surgery 109:799-801, 1991