女性の鼠径ヘルニアに対する特別な考慮事項のまとめ

鼠径ヘルニア 女性 画像外科
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鼠径部のヘルニアにおける男女差

鼠径ヘルニアの修復は、女性に比べて男性の方が多く受けており、その頻度は8~10倍である。
鼠径部のヘルニア全体では、男性の方が9~12倍の高い頻度で発生する。しかし、大腿ヘルニアに限ると女性の方が多く、その頻度は約4倍である。

女性に限った鼠径ヘルニアの修復を具体的に取り上げたシステマティックレビューやランダム化比較試験(RCT)はない。
女性の前方アプローチによるヘルニア修復術後の再手術率は男性と比較して高い。女性の再手術の約40%に、大腿ヘルニアでの再発が認められており、これらの「再発」は最初の手術の際に見落とされた大腿ヘルニアである可能性が示唆されている。したがって、鼡径ヘルニア治療に関する欧州ヘルニア学会(EHS)のガイドラインでは、女性に対しては鼠径部と大腿部の両方のヘルニア門となり得る部分を確実にカバーするべく、腹腔鏡下での手術を推奨している。

女性が鼠径部の腫脹を呈する場合の鑑別診断

ヌック管(Nuck管)水腫

鼠径ヘルニアによく似た症状を呈する。

20代や30代や40代など若い女性に多く見られるため、若年の女性においては鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアに並んで筆頭に挙げるべき鑑別診断である。

通常は胎生期の鼠径管内に発生し、出産後に消失するヌック管の残骸の内部に液が溜まる疾患。

ヌック管水腫
鼠径部から外性器にかけて、圧迫しても小さくならなかったり、環納されない膨らみとして感知されることがある。子宮内膜組織が含まれる可能性があることが知られており、下記のように、月経(生理)と腫脹や痛みなどの症状との関連について聴取することは重要である。

 

異所性子宮内膜症

子宮内膜症が、鼠径管内の子宮円靭帯に沿って発症することがある。また、上記のように、ヌック管水腫の中で発生することもある。鼠径ヘルニアやヌック管水腫と同様に腫脹などの症状を示す。また、子宮内膜症と同様に生理周期に関連した痛みを伴うこともある。

子宮円靭帯静脈瘤

子宮円靭帯は、子宮と大陰唇を取り囲む靭帯で、子宮を前屈させるように支えている。

女性 鼠径ヘルニア
妊娠中の鼠径ヘルニア形成の真の有病率は不明である。ただし、妊娠中に鼠径ヘルニアが形成されることはまれであるとされており、慎重な待機戦略は、妊娠中に鼠径部が腫脹してきた患者に対して推奨されている。

主に小規模な症例シリーズや症例報告で報告されているが、妊娠中の鼠径部のしこりの発症は、ヘルニアではなく、しばしば円靭帯静脈瘤である。その診断はカラードップラー超音波検査で実施できる。静脈瘤からなる鼠径部のしこりの場合は、注意深い経過観察が安全であるとされ、分娩後には症状が自然に緩和される。
痛みが強い場合にのみ静脈瘤の切除が必要となることがある。

女性が鼠径部の腫脹を呈する場合の最適な診断法

女性の鼠径部のヘルニアを疑う症例での診断のポイントは、鼠径ヘルニアの有無だけでなく、大腿ヘルニアの有無の確認、円靭帯静脈瘤やNuck管水腫の検索である。

鼠径ヘルニア 女性 画像
典型的な徴候を示す鼠径ヘルニアが存在する場合、診断は診察のみで確定できることが多い。教科書的には、大腿ヘルニアで腫脹する場所は恥骨結節の下側に腫脹を生じ、鼠径ヘルニアは上側の腫脹を生じると記載されている。しかしながら、この微妙な区別は、特に肥満の女性では、しばしば困難である。
そのため、大腿ヘルニアの診断精度を上げるために、エコー(超音波検査)はルーチンで実施することが望ましい。
鼠径ヘルニアの初期画像診断法としての超音波(エコー)のメタアナリシスでは、診断が不確実性な症例において、エコーによる診断精度の向上が見られた。しかし、超音波検査や身体診察は「検査者に依存する」ものであり、鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアを区別できない場合がある。また、身体診察もエコーも、どちらも大腿ヘルニアを完全に見逃してしまうことがあり得る。
カラードップラーを用いたエコーは円靭帯静脈瘤の検出に有効である。
若年女性で、病歴や身体所見やエコーなどからNuck管水腫を疑う場合は、病変の広がりを判断し、術式選択に役立てるためにも、MRIを追加することを考慮したい。

女性の鼠径部のヘルニアは大腿ヘルニアが多いことを常に念頭におく

文献によると、大腿ヘルニアは鼠径ヘルニアの修復を受ける女性によく見られるが、大腿ヘルニアであると正しく術前診断されていないことがしばしばあるとされている。

いくつかの大規模な疫学研究では、前方アプローチによる鼡径ヘルニア修復術後の再発率が、男性より女性で高いことが示されている。前方アプローチによる、メッシュまたは非メッシュ(=組織)修復術後の再手術の約40%で大腿部の「再発」が認められるとされる。そして、女性ではこの大腿部での「再発」のリスクが10倍近く高いとされている。これはつまり、前方到達法での最初の手術において、大腿ヘルニアが見落とされている可能性が高いことが考えられる。同じ研究のサブグループ解析では、腹腔鏡アプローチ(TEP、TAPP)後の再手術率は、Lichtensteinなどの前方アプローチと比較して低いことが示されている。これも女性の前方アプローチにおける「大腿ヘルニア見逃し説」を支持している。

女性の鼠径ヘルニアに対しては腹腔鏡を考える

女性のヘルニア修復に焦点を当てた2つの小規模コホート研究では、前方到達法による修復は、TEP法による修復を受けた女性と比較して、術後合併症率が比較的高く、術後疼痛の発生率が高いことを示唆していた。

女性における大腿ヘルニアの頻度が高く、上記にように、大腿ヘルニアでの再発リスクが高いことから、鼠径ヘルニアを持つすべての女性に対して、腹腔鏡下での検索と修復の必要性が強調されている。腹腔鏡での修復術では、筋恥骨口全体を完全に観察することができ、鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの両方のヘルニア門となり得る部位に容易にアクセスし、閉鎖することができることが重要である。
ただし、解剖学的にもメッシュの適用に関しても、腹腔鏡下修復術と開腹前方修復術の間にはほとんど違いはないが、腹腔鏡下の鼠径ヘルニア修復術には長い学習曲線があることは問題点である。

女性の鼠径ヘルニアの手術のタイミング

大腿ヘルニアは鼠径ヘルニアと比較して絞扼のリスクが高い。スウェーデンおよびデンマークのヘルニア登録では、大腿ヘルニアの36~39%が緊急修復されたのに対し、鼠径ヘルニアは5%であった。
さらに、大腿ヘルニアの患者は、腸管切除を受けるリスクが高いことも留置すべき必要がある。腸管切除を受けるリスクは、緊急の大腿ヘルニア修復を受ける患者では23%、緊急の鼠径ヘルニア修復を受ける患者では約5%であった。腸管切除は、女性に限ると、緊急の鼡径ヘルニア修復を受けた女性の17%、大腿ヘルニアについての具体的なデータはなかった。

女性の「待機的」大腿ヘルニア修復術後30日間の死亡リスクは、年齢と性別を一致させた集団の死亡リスク(0.1%未満)と同程度である。しかし、「緊急」大腿ヘルニア修復術後30日以内に3.8%もの女性が死亡している。

女性においては、大腿ヘルニアの発生率が高いことと、大腿ヘルニアによる絞扼の危険性を考慮すると、女性の鼠径ヘルニアに対しては、注意深い経過観察のもとに手術を遅延させることは避けるべきで、適切な時期に早期にヘルニア修復術を実施することが推奨される。

鼠径ヘルニア修復術における円靭帯の処理【切離するかしないか】

女性の鼠径ヘルニア修復術の管理において未解決の問題の一つは、手術中に円靭帯を切離すべきか否かということである。
文献にはどちらかを支持する証拠はないが、主に腹膜前・腹膜後の神経切除術の経験からの推定に基づいて、解剖学的に考慮すべき点がいくつかある。

開腹(前方)ヘルニア修復術では切離は避ける

円靭帯は、子宮から、子宮広間膜を通って、鼠径管に入り、最終的に大陰唇に至る。陰部大腿神経の陰部枝は、ほとんどが内鼠径輪で円靭帯と合流するが、それより早く合流することもある。開腹修復における円靭帯の切離は、本来、陰部枝の切離を伴いう。この神経を犠牲にすることで、通常は合併症はほとんど起こらないが、感覚の過敏症や同側の大陰唇のしびれのリスクがある。したがって、開腹(前方)ヘルニア修復術では、円靭帯の切離は避けることが推奨される。円靭帯が切離された場合は、偶発的に結紮された神経を適切に処理するように注意しなければならない。

腹腔鏡下ヘルニア修復術では術者次第

腹腔鏡下ヘルニア修復術における円靭帯の切離は任意である。
円靭帯は腹膜に包まれているため、メッシュが下に折れたり、下に滑ったりすることがある。このため、外科医によっては、最適なメッシュ配置を容易にするために、腹腔鏡下手術において円靭帯を切離する。内鼠径輪に入るまでは神経と円靭帯とは別々に走行するため、腹膜前腔での切離に問題点は少ないだろう。このように、円靭帯を切離する場合は、陰部大腿神経の陰部枝と合わさる内鼠径輪より子宮側で行われるべきである。

まとめ

身体診察や臨床検査で、確実に鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアを鑑別できるものはない。身体診察とエコーを組み合わせることが最も大腿ヘルニアを疑う患者で有効である可能性がある。
大腿ヘルニアは女性においてより頻度が高い。
大腿ヘルニアは鼠径ヘルニアより、絞扼や嵌頓の頻度が高い。女性における大腿ヘルニアの実際のリスクと結果は不明である。
もし専門的技能があるならば、女性の鼠径部のヘルニアは腹腔鏡下にメッシュを用いて修復することが推奨される。
女性においては、適切かつ早期のタイミングでの手術が推奨される。
女性においては、大腿ヘルニアの可能性を鑑別に挙げることが重要である。

参考文献

International guidelines for groin hernia management

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