『誰も教えてくれなかった診断学』のまとめ

外科

誰も教えてくれなかった診断学は、数年前、まだ研修医だった時に初めて読みました。

この本では診断のプロセスを論理的に言語化し、再現性のあるメソッドとして紹介してくれており、非常に感動したのを覚えています。

最近再度この本を読み直す機会があり、やはり名著だと感じたので、この本のエッセンスを紹介したいと思います。

読みやすいまとまった内容で、気軽に通読できるので、興味を持ったら、ぜひ全部読んでみて下さい。

診断学

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医学情報への翻訳

まず最初に、患者の言葉を、臨床的な問題解決に活用できる情報に変換する作業が必要です。

臨床的な問題解決には様々な制約があります。

診察時間には制約があり、無制限に時間はかけられません。

また患者の身体的・心理的・経済的負担は最小限に止めたいところです。

さらに、早期治療のためには、臨床診断に至るまでの時間は短いほどほど良いと言えます。

コストなど、様々な面から、検査は最小限にしておきたいです。

そういうわけで、臨床診断を効率よく行うためには、患者の言葉をただ受け身で聞くだけでは不十分です。

いかに臨床的に役立つ情報に変換できるかが肝要です。そのためには、医師が能動的に必要な情報を収集しに行く必要があります。

この翻訳とも言える作業は、とくに初学者はうまくできません。

情報収集にあたっては漠然と行うのではなく、動きながら考えましょう。

得られた手がかりを元に作った仮説を検証するために、病歴聴取と診察をするという意識を持ちましょう。

『患者から得られた情報から、自分の考えや診断仮説を適宜修正し、それに応じて新たな質問を投げかける』という双方向的なプロセスが効果的です。

問題解決のための生きた情報にするためには、その問題を解剖学的・生理学的に分類するだけではなく、

OPQRST

  • O:Onset 発症様式
  • P:Provocative/ Palliative 増悪・寛解因子
  • Q: Quantity/ Quality 痛みの性質・程度
  • R: Region/ Radiation/ Related symptoms 部位・放散痛・関連(随伴)症状
  • S: Severity/vital Signs 重症度
  • T: Time course/Treatment 経過/それまでに行った治療

に基づいて分類することも有効です。

鑑別診断を挙げる

この本では、クリニカルプロブレムに対応した鑑別診断のリストを想起することを、カードを引くことに例えています。

患者のクリニカルプログラムに対応する適切な診断仮説の候補をいくつか想起してリストを作り、一つ一つの診断仮説の可能性を吟味します。

カードはインデックスとリストから構成されます。インデックスにはクリニカルプロブレムを、リストには診断仮説の情報を入れます。

クリニカルプログラムによっては、そのままインテックスにせず、患者背景や臨床的状況を踏まえたインデックスにした方が効果的です。

なぜなら鑑別診断が多すぎる、いわゆる死にカードは診断推論の役に立たないからです。鑑別診断は3〜5個が適当です。多くても7個までに絞るべきです。

適切な鑑別診断に絞り込めない理由

クリニカルプログラムに対応する適切なカードにたどり着けないのは以下の6つの理由があります。

カードを引く段階での診断推論の失敗

  • 思考停止
  • 知識不足
  • 誤分類・誤翻訳
  • 鑑別診断が多すぎる
  • 疾患知識の誤り

これらは互いに複雑に絡み合っており、1つに問題があると、他にも影響します。

例えば、知識不足は、不適切な鑑別診断の想起につながり、そうなれば思考停止になりやすい、といった具合です。

診断の3つの軸とカードの中身の作り方

3つの軸とは?

頻度、緊急度、アウトカムの3つの軸があります。

頻度の軸から考える

可能性の高そうなものから考えるべきです。

患者の年齢や既往歴などの背景情報や簡単な病歴から、まずは可能性の高い診断仮説を3〜5個想起します。

仮説演繹法とは、頻度の軸に重点を置いた考え方です。

ともすると稀な疾患を考えがちだが、稀な疾患はやはり稀にしか出会いません。まずはやはりありふれた疾患から優先的に考えるべきです。

この落とし穴は、ヒヅメの音を聞いてウマではなくシマウマを探すことに例えられます。シマウマ探しにハマらないようにしましょう。

緊急度の軸から考える

緊急性、治療のゴールデンタイム、進行性を意識しましょう。

通常問題解決にはタイムリミットがあります。

1緊急性

緊急性の高い疾患は、鑑別診断を考えるとき、(多少稀であっても)常に考えるべきです。

注意点として、緊急性のある疾患は救急外来に来るわけではない。また、救急車に乗ってくるわけではないことを忘れないようにしましょう。

見た目の元気さに惑わされてはなりません。

2治療可能性と治療が可能なゴールデンタイムを逃さない

タイミングを逃さずに適切な治療を実施すればアウトカムを変えられる疾患があります。

鑑別診断を考えるときには、タイミングを逸すると治療が無効になる疾患を優先的に考えるようにしましょう。

緊急時には、治療の前に確定診断が必須ではないことも覚えておきましょう。暫定診断で治療を開始することが必要なこともあるのです。

3進行性

通常、病態は刻々と変化します。

患者が安定しているか、悪化しているか、改善しているかを観察する事は次のアクションを起こす際の重要な判断材料となります。

とくに進行性に悪化している場合は、過去の検査結果や身体所見に囚われ過ぎないことが大切です。

アウトカムの軸から考える

頻度は高くないが、起こりえるアウトカムの重大性、不可逆性と言う視点から、見逃してはならない疾患が存在します。

タイミングを逃さず治療すれば、最悪のアウトカムを回避できるという「治療可能性」がある疾患があります。

治療可能性があり、頻度が高い疾患こそが、最優先に鑑別するべき疾患です。

ありふれた日常診療の中にも重大なアウトカムきたしうる疾患が潜んでいます。そして、普通は目立たないが何らかの兆候があることが多いです。そのようなレッドフラッグサインを見逃さないことこそが手遅れになる前に治療に繋げるためのポイントです。

ただ、レッドフラッグサインに気付くのは容易ではありません。気付くためには、治療可能性があり高頻度の疾患というものを、常に念頭において、患者を意識的に見る必要があるのです。

ゴミ箱的診断仮説は、鑑別診断の上位には持ってこないようにすることも肝要です。

患者が疾患を持つ可能性を吟味する

一つずつ鑑別診断ごとに可能性を吟味する作業が必要です。

まずは、鑑別疾患を持つ可能性を確率で表します。事前確率といいます。

そして、意識的に情報収集をして、鑑別診断が真に存在するか否か検証します。通常情報を得るごとに、患者が疾患を持つ確率は変化していきます。事後確率といいます。

疾患の可能性がどれくらい高くなったら治療を始めるか。つまり、治療閾値を考えます。治療閾値は治療の利益と不利益のバランスで決まります。

疾患の可能性がどれくらい低くなったら、その疾患を除外して良いか。つまり、検査閾値を考えます。

確定診断と除外診断

診断仮説の検証のゴールは、患者が疾患を持つ確率を、治療閾値以上まで引き上げるか、検査閾値以下まで引き下げることです。

最初に、症状・身体所見・頻度・危険因子などから、事前確率を、低・中・高の3区分くらいに分けて大雑把に見積もります。

検査を必要に応じて実施し、情報を仕入れた上で、検査後確率が確定診断や除外診断に足るのか評価・解釈すると良いでしょう。

臨床情報の性能

ある臨床情報(身体所見や検査所見や病歴など)事後確率をどれくらい大きく低くしたり高くしたりできるかという力のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。

この性能を評価するために、感度、特異度、尤度比というKey wordがあります。

患者の言葉を、臨床的な問題解決に活用できる情報に変換するであれば、確定診断に役立ちます。

  • 感度が高い検査が陰性であれば、除外診断に役立つ
  • 特異度の高い検査が陽性であれば、確定診断に役立つ

ということが必須知識です。

検査後確率は、検査そのものの性能よりも、検査前確率の影響を強く受ける。だからこそ、検査前確率を適切に見積もっておくことが結果の解釈のために重要なのです。

検査前確率が極端に高ければ、検査後確率は大して低くならないし、検査前確率が極端に低ければ、検査後確率は大して高くならないことは検査結果に振り回されないために覚えておきましょう。

このように、臨床情報に応じて、事後確率を見積もっていく診断推論を仮説演繹法といいます。

仮説の検証の際の失敗

診断仮説の検証の段階では以下の失敗が多いといわれます。

事前確率の推定が曖昧

事前確率の推定が曖昧であると検査結果に振り回されやすくなります。

事前確率が非常に高いのに、陰性の検査結果に惑わされ、診断仮説を否定してしまうことが起こり得ます。

同様に、事前確率が非常に低いのに、陽性の検査結果に惑わされて混乱することもあり得ます。

事前確率の見積もりの誤り

一応、事前確率を推定しているが誤った推定をしている場合です。

誤った事前確率から出発するので事後確率の解釈も当然見当違いになります。

3事後確率の解釈の誤り

検査特性の知識不足により、検査結果の影響を過大評価してしまいます。

結果的に事後確率の解釈を誤ってしまいます。

対立仮説の扱いの誤り

確定・除外された場合、他の対立仮説の可能性は以下の3通りの場合があります。

  1. 低くなる
  2. 変化しない
  3. 高くなる

対立仮説に関連する推定エラーの実例としては以下があります。

1本来追求すべき診断仮説を無視する

2対立診断仮説の確定による誤解

診断仮説の検証法

仮説演繹法

得られた情報から、可能性の高そうな仮説を帰納法的に数個挙げ、その仮説を演繹法的に検証する方法です。

まずは常に仮説演繹法を用いて評価するように癖をつけます。

仮説演繹法には以下の様な特徴があります。

長所

簡便で実用的、論理的なので後から臨床推論の過程を反省しやすい、他者に対して診断に至った根拠を説明しやすい。

短所

稀な疾患、複雑な病態の診断には適用しづらい。

徹底的検討法

系統的かつ網羅的に鑑別疾患を挙げて検証する方法です。

長所は複雑な病態や珍しい疾患の診断には有効であること。

非効率的なのが短所。

アルゴリズム法

アルゴリズムに沿って検査や判断をしていき、最終的に診断に至るという方法です。

系統化されているので、限定された状況では抜けや漏れが起こらないため、非常に有効です。診断までが早いことも長所です。

短所は、鑑別疾患の幅が狭いことです。また、最悪の結果の回避に重点を置いているため、無駄が多くなりがちです。そして、適切なアルゴリズムを適用するためにそもそも相応の基礎知識が必要となります。

パターン認識

患者の特徴を、自身の過去の経験に照合させて直感的に診断する方法です。

経験を積むほど無意識に多用するようになります。

経験豊富な場合には、ある程度正確かつ迅速かつ楽に診断に至ることができることが長所です。

短所としては、経験したことのない疾患は診断できない、診断プロセスが不明、バイアスの罠に嵌まりやすい、ということが挙げられます。

パターン認識でバイアスの罠にハマらないために

違和感を大事にしましょう。

おかしい、自信がないと少しでも感じたら、直感的に心に浮かんだ診断に固執しないことが必要です。

たくさん見たことのある病気かどうかを常に自問しましょう。たくさんの症例を見て形成された疾患パターンは、ほとんど見たことがない疾患より信用できます。ほんの少しの症例しか見たことがなければ、パターン認識に頼らないのが安全です。

バイアスの存在を意識しましょう

人間の思考は、合理的ではなく、常に不合理であるということを覚えておくだけでエラーを減らすことができます。

直感的な結論に飛びつきたがる傾向があり、年齢を重ねるほど、その傾向が顕著になります。

シマウマ探しをしてしまうのも、最近見た印象的な症例に影響されてしまうのもこれが原因です。

また、感情的になったり、疲れて意思力を消耗していると、直感的な結論を肯定するように裏づけを得ようとし、否定的な手がかりが見えなくなってしまいます。

バイアスについては、ぜひD.カーネマン氏による名著『ファスト&スロー』を一度は読んでいただきたいと思います。

 

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