鼠径ヘルニア 嵌頓 戻し方 整復 時間 CT エコー

【外科医直伝!】鼠径ヘルニアが嵌頓した時の戻し方

この記事では

鼠径ヘルニアの嵌頓の具体的な戻し方を知りたい
鼠径ヘルニアの嵌頓の整復が禁忌となるような経過時間が知りたい
鼠径ヘルニアの嵌頓におけるエコーやCTの所見について知りたい

こんな疑問に答えます。

 

はじめに結論のまとめです。

整復の禁忌は、ヘルニア内容が壊死している可能性が高いとき
発症から6〜12時間辺りで腸管壊死の可能性が発生してくる。
鼠径ヘルニアの整復には、冷却・鎮痛・鎮静・体位調整の準備が欠かせない。
ヘルニア内容とヘルニア門との軸を揃えるtaxis maneuverが有効
エコーを使うと整復の成功率が高まる
CTは鼠径ヘルニア嵌頓の確定診断、壊死の可能性などに役立つ。

 

嵌頓した鼠径ヘルニアをうまく戻せると、』夜中に外科医を呼び出すという精神的苦痛から免れられます笑

何より患者さんも緊急手術が回避できて、きちんと準備してから手術が受けられるのでハッピーです。

ぜひ正しい戻し方を覚えて下さいね。

 

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嵌頓鼠径ヘルニアの徒手整復の適応の診断

徒手整復の適応となるのは、以下の2パターンです。

  • 嵌頓ヘルニア
  • 非環納性ヘルニア (徒手整復は必須ではない)

 

嵌頓ヘルニア も非環納性ヘルニア も、どちらもヘルニア 内容が脱出したままの状態です。

両者の違いは、絞扼という血流障害が起こった状態にあるかないかです。

つまり、嵌頓は、絞扼しており、早急に解除しないと壊死します。

嵌頓は緊急事態です。

 

他方、非環納性ヘルニア は、緊急事態ではありません。

絞扼しておらず、環納しなくても壊死には至りません。

単にヘルニア 門がガバガバに大きすぎてヘルニア 内容がズルズルと外に溢れてしまう状態ですね。

だから、非環納性ヘルニア は、別に徒手整復しなくても問題はありません。

(もちろんヘルニア の根治手術の適応はありますが)

 

嵌頓と非環納性の見分け方

症状をよくみることが大切です。

嵌頓も非環納性も、どちらも鼠径部が持続的に膨隆しています。

 

両者の最大の鑑別ポイントは、痛がっているか否かです。

 

嵌頓していれば、血流障害などのため、普通は痛がっています。

ただし、めちゃくちゃ認知機能不良な患者さんはあんまり痛がっていないように見えることがあるので注意します。

 

非環納性は痛がっていることはありません。

ケアに入った看護師さんが、あまりの鼠径部〜陰嚢のデカさにビックリして、

『一応ドクターに報告しとくか…』

というのが頻出パターンです。

サっと戻すと看護師さんから尊敬されます。

秒でまた出てきますが笑

 

膨隆部の硬さも大切なヒントです。

 

嵌頓は膨隆したところがカチカチに硬いです。

ゴルフボールくらいの硬さです。

 

非環納性は硬くありません。

スポンジ〜ゴムボールくらいの感触です。

 

嵌頓鼠径ヘルニアの徒手整復の禁忌

脱出したヘルニア 内容の壊死が疑われる場合は徒手整復してはいけません!

 

では、どのような時に壊死を疑うのでしょうか?

以下にまとめます。

  • 発症から12〜24時間以上経過している
  • 明らかに汎発性腹膜炎
  • 鼠径部が真っ赤に腫れている

 

sickな外観を呈していたら整復は控えましょう。

鼠径部だけでなく、腹部全体に腹膜刺激徴候がある場合も整復はダメです。

鼠径部が真っ赤に腫れているのは、壊死を強く疑うので、緊急手術の方針で診療を進めましょう。

 

鼠径ヘルニアの嵌頓から壊死までの時間

色々な報告があり、一定はしませんが、発症からの経過時間は大切な情報です。

  • 4時間以内ならまず問題ありません。
  • 6時間以内であればおそらく大丈夫そうです。
  • 10時間以内がゴールデンタイムと書いてあるものもありますので、よく各種の所見を見てから、徒手整復するかどうか判断します。
  • 12時間を超えると壊死のリスクが高まってくるので、基本的には徒手整復はやめて、外科医に緊急手術を相談する心づもりで診療していきましょう。
  • 24時間以上経過している場合には絶対に徒手整復しないでください。

 

発症からの経過時間を判断基準とする場合の問題点として、いつ嵌頓したか誰も分からないことが多いということは覚えておきましょう。

認知症の方にいつから痛くなったか聞いても無意味です。

 

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具体的な嵌頓鼠径ヘルニアの戻し方

一番残念な戻し方は、いきなり患部をごちゃごちゃといじくるパターンです。

患者さんが痛がるので、腹圧が上がり、戻るものも戻りません!

さらに浮腫も悪化して、状況が悪化します。

 

『良いジャンプは?良い助走から!』というハイキュー‼︎の名言の通り、良い仕事をするには、まずは下ごしらえからこだわりましょう。

冷やす

まずは浮腫の軽減です。

保冷剤では無意味なので、アイスパックできちんと冷やします。

 

直に氷を当てると低温やけどを起こすので、タオルなどで調節して下さい。

 

20-30分待つのがおすすめです。

 

十分な鎮痛

鎮痛は超絶重要です。

フェンタニルとかペンタジンとか、キレの良い薬剤であれば何でも良いです。

 

患者さんの眉間のシワがなくなる程度に鎮痛します。

腹腔内圧を上げないようにすることは、ストレスの少ない鼠径ヘルニア整復の大切な条件です。

 

鎮静

必要に応じて追加しましょう。

鎮痛さえ十分効いていれば、成人ならミダゾラム1mg(1Aを10ccに伸ばして1cc)くらいの少量でも十分です。

 

体位

まずは患者さんを、仰臥位にします。

軽く頭低位(トレンデレンブルグ位)にするのも腹圧が下がってグッドです。

 

患側の股関節を開排させて、カエルのようなポジションにすると、筋肉の緊張が緩みます。(frog leg position)

 

よく冷やして、十分鎮痛して、軽く鎮静して、体位を整えると、それだけで押し戻さずに環納できることも珍しくありません。

 

徒手整復の手技

まずは想像してみて下さい。

瓶の中へ泡を入れるイメージです。

瓶の口は細いです。そして、泡は柔らかい。

無目的に押さえても、泡は外にこぼれるばかりで瓶の中には入りませんよね?

 

うまく瓶の中に泡を戻すには、片手を漏斗のように使って細い瓶の口に泡を導いてあげる必要があります。

 

同じように、嵌頓した腸管を鼠径管から腹腔内へと戻すために、うまく片手で誘導してあげましょう。

 

まず片手を漏斗のようにして、外鼠径輪に当てます。

外鼠径輪は、恥骨の1~2横指ほど頭側・外側辺りにあります。

嵌頓している方は分かりにくいので、患者さんの健側で確認してみてください。

硬い恥骨のすぐ頭側・外側で、腹壁が柔らかくなるところです。

慣れないうちはけっこう恥骨に近い感じがするかもしれません。

外鼠径輪の位置を知らないと整復しにくいので、外科ローテ中に、オペを見てよく確認しておきましょうね。

片手でヘルニア内容を外鼠径輪→鼠径管へガイドしたら、反対の手の出番です。

優しくヘルニアの遠位側(陰嚢側)に穏やかな圧力をかけると、グチュグチュといいながらヘルニア 内容が腹腔内に戻ります。

陰嚢側に落ち込んだ腸管を、外鼠径輪の上に優しく戻してあげる感じです。

これをtaxis maneuver(タクシス・マンユーバー。直訳すると配列手技)と呼びます。

 

YouTubeの動画も確認してイメージしてみて下さい。

 

戻らないときの対策

鼠径管を圧迫していませんか?

鼠径管を押しつぶすと腹腔内への経路が遮断されるので戻りません。

強く押し戻そうとしていませんか?

押して戻すというよりは、ちょっとサポートしてあげたら、腸管の重さで勝手に戻るというイメージです。

あくまでも脱出した腸管と外鼠径輪との配列を整えることに集中してください。

なんなら押さえなしで、両手で漏斗を作っても良いくらいです。

 

強く押すと浮腫が悪化して戻らなくなります。

 

すぐ戻ると思っていませんか?

最低5分くらいは続けましょう。

5〜15分が目安です。

 

大腿ヘルニアではありませんか?

鼠径部ヘルニアのひとつとして、大腿ヘルニアを忘れてはなりません。

大腿ヘルニアの頻度は、鼠径部ヘルニア全体では2〜8%ですが、男女差が大きいです。

男性では1%程度しかないので珍しいですが、女性では10%くらいが大腿ヘルニアです。

 

大腿ヘルニアは、ヘルニア門がかなり狭いので、戻すのはめちゃくちゃ難しいです。

オペしても、鼠径靭帯をちょっと切らないと戻らないこともしばしばです。

ちなみに自分は大腿ヘルニアはオペせずに用手環納できたことがないです。

 

嵌頓鼠径ヘルニアにおけるエコーの役割

嵌頓鼠径ヘルニアにおけるエコーの役割は以下の2点です。

  • ヘルニア門を探すのに役立つ
  • 嵌頓した腸管が生きているかの判断材料になる

 

筋膜の欠損部を探すことで、どこに向かって押し戻せば良いかがより明瞭になります。

これはとくに初心者には有効だと思います。

 

また、カラードップラーや腸管の蠕動の有無をリアルタイムで見ることによって、嵌頓した腸管が壊死しているかどうかが確認できます。

ただし、外科医は概して他人のエコーの所見は信じない生き物だということは覚えておきましょう。

 

エコーの動画も確認してみて下さい。

Scrotal Swelling and Pain from Sierra Beck on Vimeo.

 

嵌頓鼠径ヘルニアにおけるCTの役割

嵌頓鼠径ヘルニアにおけるCTの役割は高い診断能力です。

 

以下の参考のリンクの画像を解説するので、スクロールして確認下さい。

(https://radiopaedia.org/cases/indirect-inguinal-incarcerated-hernia)

 

小腸が拡張(2.5cm以上)し、Air-Fluidレベルが形成され、外鼠径輪の直前でCaliber changeがあり、そこから脱出する遠位の小腸ループを認めます。

 

嵌頓した小腸の壁は浮腫性に肥厚していますが、造影効果は保たれています。

右の鼠径部のヘルニア嚢の中に脂肪織濃度上昇や浸出液の貯留を認めます。

 

これらから、絞扼された腸管の静脈環流が阻害されているものの、動脈血の供給は依然保たれている状態であり、徒手整復の適応であると判断できます。

 

嵌頓ヘルニア を戻した後は?

伝統的には、24時間の経過観察入院をしてもらいます

嵌頓していた腸管がすでに壊死していた場合、遅発性の消化管穿孔から、腹膜炎を起こす可能性があるからです。

仕事の都合などで頑として入院に同意してもらえない場合は、遅発性穿孔の可能性を重々説明してカルテに記載しておいて下さいね。

 

さらに、早急な鼠径ヘルニア根治手術を行います。

できれば1か月以内の手術、理想的には経過観察目的の入院からそのまま手術がおすすめされています。

 

まとめ

今回ご紹介したtaxis maneuverは、最大70%ほどの徒手整復の成功率だそうです。

とくに、発症早期であれば成功率は高いです。

 

最後におさらいです。

整復の禁忌は、ヘルニア内容が壊死している可能性が高いとき
発症から6〜12時間辺りで腸管壊死の可能性が発生してくる。
鼠径ヘルニアの整復には、冷却・鎮痛・鎮静・体位調整の準備が欠かせない。
ヘルニア内容とヘルニア門との軸を揃えるtaxis maneuverが有効
エコーを使うと整復の成功率が高まる
CTは鼠径ヘルニア嵌頓の確定診断、壊死の可能性などに役立つ。

 

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参考

https://jhs.mas-sys.com/civic1.html

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7258608/


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