鼠径ヘルニアのエコー診断の方法や所見を画像で解説

鼠径ヘルニア エコー外科

エコーは最も低侵襲な技術であり、患者に放射線を照射しないというメリットがある。

しかし、検査者の技量によって検査の精度が変わってくるため、適切な検査法や解剖学的構造を理解しておく必要がある。

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鼠径ヘルニアの診断におけるエコーの感度や特異度

メタ解析では、エコーは感度86%、特異度77%で鼠径ヘルニアを検出できることが実証されている。

バルサルバ法といって、患者に息こらえをしてもらうことで腹腔内圧を高める手技は、ヘルニアを誘発するために使用される。

これらのヘルニア内容物が鼠径管を介しての動く様子を捉えることは、エコーで鼠径ヘルニアの診断を行うために不可欠。この鼠径管内でヘルニア内容が動いているのを確認しないと、偽陽性や偽陰性につながる可能性がある。

痩せた患者では、精索が鼠径管内で正常に動いて見える様子から偽陽性診断につながる可能性がある(鼠径ヘルニアではないのに鼠径ヘルニアと診断される恐れがある)。

肥満の患者では、腹壁の突出による解剖学的な歪みや脂肪によるエコーの減衰などにより、解剖学的構造の特定がより困難になることがある。

鼠径管の解剖学的構造

まず、鼠径靭帯の走行を理解する。鼠径靭帯は上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)と恥骨とをつなぐ靭帯である。

そして、内鼠径輪(深鼠径輪)は、ちょうど鼠径靭帯の中間あたりに存在する。

鼠径ヘルニア

 

成人では、鼠径管(inguinal canal)は、深部から表層にかけて斜めに走行している。そのため、深鼠径輪(内鼠径輪 : internal ring)と浅鼠径輪(外鼠径輪 : external ring)は下の図のようにズレており、重なっていない。

鼠径ヘルニア 解剖

 

鼠径部のエコーの評価

体位

鼠径部のエコー検査は、患者が仰臥位の状態で行われる。ただし、仰臥位の評価で鼠径ヘルニアが見つからない場合は、立った状態での再検査も推奨される。

環納性の鼠径ヘルニア(出たり戻ったりするヘルニア)を同定するためには、バルサルバ(Valsalva)法といって、患者に息をこらえてもらい腹圧を上げてもらうことが不可欠である。

症状がはっきりせず、確定的なエコー所見が得られない場合には、正常と思われる反対側と比較することが推奨される。

ダイナミックにヘルニア内容が動くのが見えることがエコーの特長

ヘルニア組織の特徴的な動きが診断確定に欠かせない。

この動きをダイナミックに捉えられる機能がエコーの他の画像技術と比較した場合の最大のメリットである。

ヘルニア内容が腸管の場合は蠕動運動を示すことがある。蠕動運動や粘膜血流を捉えることで、腸管が嵌頓していた場合に、その生存可能性を評価することも可能となる。

バルサルバ法によって、鼠径管内をヘルニア内容が出たり戻ったりすることを捉えることは、CTやMRIなどの静止画像検査のみでは見逃してしまうような鼠径ヘルニアを検出できる可能性がある。

利用するプローブ(探査子)

通常は、体表は深部までエコーを到達させる必要がなく、精細な画像が得られるように、高周波数(例えば、10-12MHz)のリニア型のプローブが使用される。

低周波(例えば、3-5-MHz)のコンベックス型は、体格の大きい患者や、何らかの目的で、より深部のスキャンが必要な場合のために利用される。

エコー プローブ

鼠径管をエコーで確認するための手順

深鼠径輪の同定

エコーで鼠径管を同定するためには、深鼠径輪を同定することが非常に重要になる。前述のように、深鼠径輪は、鼠径靭帯のちょうど中間あたりに存在する。これを念頭に入れつつ以下の手順で深鼠径輪を同定する。

まずは、臍より約2cm下で、腹直筋に対して直交するようにプローブを当てる。すると、患側の腹直筋の区画の中の背側に下腹壁血管(inferior epigastric vessels)が同定できる。よくわからなければドップラーを併用する。

鼠径ヘルニア エコー

鼠径ヘルニア エコー

下腹壁動静脈が同定できたら、それを尾側へと追跡する。エコーのプローブを尾側方向に移動させいくと、下腹壁動静脈と腹直筋の外側縁が交差する辺りに至る。

さらに尾側へと下腹壁動静脈を追跡していくと、下腹壁動静脈が外腸骨血管から分岐する場所が同定できる。その位置のすぐ頭側で下腹壁動静脈のすぐ外側が深鼠径輪である。

適宜バルサルバ法を用いたり、カラードップラーを利用しながらスキャンすること。

鼠径ヘルニア エコー

鼠径ヘルニア エコー

右側の例。鼠径靭帯(inguinal ligament)は上前腸骨棘(ASIS)と恥骨結節(pubic tubercle)とを結ぶ靭帯。

臍の2cm尾側から恥骨へ向けて尾側へIEA/IEV(下腹壁動静脈)を追跡しながらスキャンしていく。

IEA/IEVがEIA/EIV(外腸骨動静脈)に交わる部分で、下腹壁動静脈のすぐ外側に深鼠径輪(deep inguinal ring)が存在する。

ST : soft tissue軟部組織、rectus abdominis muscle:腹直筋

鼠径管をスキャンする

深鼠径輪が同定できたら、鼠径管をスキャンする。

鼠径管は深鼠径輪から始まり、鼠径靭帯に沿って頭側→尾側、外側→内側へと斜めに走行していることを念頭におく。

まずはプローブを鼠径管に対して平行にしてスキャンする。続いてプローブを90度回転させ、鼠径管に直交させてスキャンする。

ここでも適宜バルサルバ法を用いたり、カラードップラーを利用しながらスキャンすること。

ここでの目的は外鼠径ヘルニア(間接鼠径ヘルニア)の検索である。精索の静脈瘤などを鑑別すること。

鼠径ヘルニア エコー

鼠径ヘルニア エコー

鼠径管に対して平行方向にプローブを当てた画像。精索が索状物として確認できる。

黒い矢印が腹膜の開口部である深鼠径輪を示す。

長い白矢印で示されるのが、精索と精巣動静脈

短い白矢印は下腹壁動静脈を示す。

鼠径ヘルニア エコー

鼠径管に対して垂直方向にプローブを当てた画像。精索が輪切りになった断面図として確認できる。

短い矢印が、精索などの鼠径管の内容物の輪郭を示す。

精索に沿って、腹膜前脂肪(F)や、静脈網(長い白矢印)も見られる。

痩せた患者の正常な精索の動きを鼠径ヘルニアと誤診することがある。そのため、この短軸像で、バルサルバ法を行い、間接鼠径ヘルニアであれば、息をこらえた時に鼠径管が膨張することをあわせて確認しておく必要がある。

ハッセルバッハ(Hasselbach)三角をスキャンする

ハッセルバッハ三角は腹直筋外縁、下腹壁動静脈、鼠径靭帯とで囲まれた領域で、内鼠径ヘルニア(直接鼠径ヘルニア)のヘルニア門となる場所である。

ここを縦と横の2方向のプローブの向きでスキャンする。ポイントはもちろん内鼠径ヘルニア(直接鼠径ヘルニア)の検索である。

鼠径ヘルニア ハッセルバッハ三角

鼠径ヘルニアのエコー所見

鼠径ヘルニアとは、腹腔の内容物が鼠径管内に突出した病態である。

鼠径ヘルニアには大きく分けて2つのタイプがあり、全鼠径ヘルニアの50%を占める間接型と、最大25%を占める直接型である。また、最大6.8%の患者に直接型と間接型が混在していることが判明している。大腿ヘルニアも鼠径部のヘルニアだが、鼠径管は関与しない。

間接鼠径ヘルニア

間接鼠径ヘルニアでは、腹腔内の内容物が深鼠径輪を通って突出する。つまり、ヘルニア門は下腹壁動静脈より外側にある。

バルサルバ法を行うと、ヘルニア内容は鼠径管の中を移動する。ヘルニア嚢が大きい場合、鼠径管から浅鼠径輪を経て、陰嚢へと下降することがある。

鼠径ヘルニア エコー

右側の間接鼠径ヘルニア。

Valsalva法で息をこらえて腹圧を上げると、鼠径管内に大きなヘルニア嚢(白矢印)が突出する。ヘルニア嚢の中には小腸(*)が含まれている。

ヘルニア門(黒矢印)が下腹壁血管の外側に存在することがポイント。

さらに、上と同じ症例で、腹圧を下げると、下の画像のように、ヘルニア嚢がほぼ完全に環納されていることを示している。

残存ヘルニアには少量の脂肪だけが残る(矢印)。

鼠径ヘルニア エコー

鼠径ヘルニア エコー

右側の間接鼠径ヘルニア。

矢頭印がヘルニア嚢を示しており、鼠径管内に突出している。

ヘルニア嚢の中には流体で満たされた腸管(長い矢印)も見られる。

少量の漿液(*)もヘルニア嚢内に存在する。

直接鼠径ヘルニア

直接ヘルニアでは、腹腔内の内容物が深鼠径輪を通らずに突出する。深鼠径輪のかわりにハッセルバッハ三角がヘルニア門となる。つまり、ヘルニア門は下腹壁動静脈より内側にある。

バルサルバ法を行うと、ヘルニア内容はエコープローブに向かってまっすぐ突出してくる。

鼠径ヘルニア エコー

右側の直接鼠径ヘルニア。

(H)が大きな脂肪と腸を含むヘルニア嚢を示す。

ヘルニア嚢は、下腹壁血管(矢印)の内側に位置している。

EIA=外腸骨動脈、EIV=外腸骨静脈。

鼠径ヘルニア エコー

右側の直接鼠径ヘルニア。

息を堪えさせる前の状態で、ヘルニアは見えない。

下腹壁血管(曲がり矢印)の内側に腹膜の境界の目印となる脂肪のライン(直線矢印)が示されている。

息を堪えさせると、下の画像のようにヘルニアが出現する。

鼠径ヘルニア エコー

腹膜の境界(直線矢印)は、下腹壁血管(曲がり矢印)の内側から突出している。

大腿ヘルニア

大腿ヘルニアは男性には珍しいが、女性には比較的よく見られる鼠径部のヘルニアである。

ポイントは、ヘルニア門が鼠径靭帯より足側に存在することである。重要な目印となるのは大腿静脈である。

大腿ヘルニア エコー

大腿ヘルニア エコー

右側の大腿ヘルニア

息を堪える前のヘルニアの見えない状態。

大腿動脈(A)、大腿静脈(V)、およびCooper靭帯(曲がり矢印)。

大腿ヘルニア エコー

息を堪えさせると、大腿静脈(V)のすぐ内側に大腿ヘルニアの突出が出現する(矢印)。

参考

US of the Inguinal Canal: Comprehensive Review of Pathologic Processes with CT and MR Imaging Correlation

↑必見。動画が非常に分かりやすい!

Sonography of Inguinal Region Hernias

↑スッキリまとまっている

外科
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