こんな悩みに答えます。
はじめに結論のまとめです。
ラパロ鉗子一覧表
名称 | 役割 | 特徴 | 由来 | |
バブコック | Babcock | 無傷性把持 | 隙間のある大きなジョー | 開発者名 |
クローチェ | Croce | 無傷性把持 | 先端の屈曲した丸っこいジョー | 開発者名 |
ヨハン | Johan | 無傷性把持 | 両開きで先端が丸っこい直線的なジョー | not found |
マンチーナ | Mancina | 無傷性把持 | 先端が細く把持力が強いジョー | イタリア語で左利き |
ドベイキー | DeBakey | 無傷性把持 | 横溝に加え横溝のついたジョー | 開発者名 |
メリーランド | Maryland | 剥離 | やや鈍な先の細いジョー | 開発者の所属した大学の名前 |
ライトアングル | right angle | 剥離 | 直角に曲がったジョー | 英語で直角の意味 |
ナターシャ | Наташа | 剥離 | 細く尖った鋭いジョー | 女性の指に似た形状にちなんで命名 |
メッツェンバウム | Metzenbaum | 剪刀 | ハサミ | 開発者名 |
この記事を読めば、鉗子の受け渡しで余計な迷いやストレスがなくなり、本来の手術操作に集中できるようになります。
ぜひ最後まで読んでみて下さいね。
腹腔鏡(ラパロ)手術で頻繁に使用される鉗子の種類や名前
マイナーなものまで含めるとたくさんの種類があります。
ここでは、メジャーなものを主に取り上げて紹介しますね。
バブコック(Babcock)
バブコックは無傷把持鉗子です。
さまざまな種類の組織を傷つけずにつかむために使用されます。
一見アリス鉗子とも似ているのですが、把持した部分の局所的な傷害を避けるために、把持面はギザギザしておらず、なめらかになっています。(アリスの方は無傷ではなく有傷です)
閉じた時に先端以外は隙間が空くような構造になっている、長いジョーが特徴です。
バブコック鉗子は、その形状を活かして、血管などの管状構造物を、ジョーの隙間で抱え込むようにして保持するのに用いられます。
IMA(下腸間膜動脈)を把持挙上するシーンが代表的です。
バブコック鉗子の名前は、静脈瘤などを治療したWilliam Wayne Babcockによって開発されたことが由来です。
クローチェ(Croce)
クローチェは無傷把持鉗子です。
片方のジョーが開きます。(シングルアクション)
ジョーの先端がやや曲がっており、把持した組織が滑るのを防止しています。
ジョーの横溝も優しい形状で、先端も尖っていないので、汎用性が高いです。
把持力はマンチーナと比べると優しく、少し大きめに優しくつまむのに最適です。
助手や術者が組織を把持する目的で、手術全体を通して最もよく使われる鉗子です。
ジョーの先端で指先のようにチョンとつまむこともできれば、ジョー全体でカプッと大きくつかむこともできます。
ジョーを開いてジョー全体で手のひらのように組織を押しのけることもできます。
内視鏡外科医であるEnrico Croce、Stefano Olmiによる開発です。
ヨハン(Johan)
ヨハンは無傷把持鉗子です。
通常は両側のジョーが開閉するタイプです。(ダブルアクション)
それぞれのジョーは先端まで直線的で、浅い横溝が付いています。
使い方としてはクローチェとほぼ同様で、腸間膜などの組織を優しく把持するのに用いられます。
クローチェは先端でつまむための能力を向上させていますが、ヨハンはジョー全体で大きく掴むことに長けています。
ヨハンと比べて、クローチェの方が先端の形状からつまむことに長けていたり、片開きのため狭いところでの取り回しに優れています。
そのため、一般的にはヨハンよりクローチェの方が好まれる傾向にあります。
しかし、このヨハンの方がクローチェよりさらに優しく組織を把持できるという理由で、ヨハンの方を好む術者も少なくはないです。
(調べた限りでは名前の由来は分かりませんでした…知っている方、コメントにて教えてください…)
マンチーナ(Mancina)
マンチーナは把持鉗子です。
mancinaはイタリア語で『左利き(女性)』という意味です。(ちなみに男性の左利きはマンチーノMancino、『左』はシニストラsinistra)
ナターシャといい、マンチーナといい、鉗子を女性に見立てるなんて、開発者がどれだけその道具を愛していたかが分かりますね。
マンチーナは、一見クローチェに似ていますが、クローチェよりも先端が細くなっています。
これにより、ピンポイントで精確に組織を把持するのに向いています。
先端部だけでつまむ構造のため、そこの把持力は比較的強く、スリップもしにくいです。
胃切除で、動脈上の神経だけを把持するのによく使います。
グラスパー系
ガッチリつかむ(grasp)ためのグラスパー。
クローチェなどの無傷性把持鉗子と違い、有傷性(トラウマティック)把持鉗子です。
ワニの口のようなアリゲーター、ヘビの口のようなコブラなど、比較的短いジョーに鋭い歯が並んでいます。
実際のところ、ちぎったり食い込んだりと、柔らかい粘膜にはダメージが強すぎるので、消化器外科領域ではあまり登場しません。
あるとしたら、胆石が頚部に嵌頓して、滑って胆嚢を把持できない時にガッチリと掴む時くらいでしょうか。
あんまり使われないけど、わりと常にスタンバイされているので、ピオクタニンに浸してマーキングによく使っていました。
ドベイキー(DeBakey)
ドベイキーは無傷把持鉗子です。
開腹用の血管セッシと同じジョーのギザギザを持っています。
横溝だけでなく、縦溝が長く走っているのが特徴ですね。
筆者はあまり使いませんが、長いジョーを活かして、助手に広く展開してもらうのに使っていました。
メリーランド(Maryland)
メリーランドは剥離鉗子です。
先端は細く尖っていますが、ナターシャほどは鋭くなくて、比較的丸っこいです。
剥離鉗子の名前通り、血管や胆嚢管など、管の周りを剥離する場面で使用されます。
また、先端が細いけど鋭くないという特徴を活かして、縫合の時の左手に使われたり、ステープルラインの先端だけ少しつまんだりと、把持鉗子として使われることもあります。
Maryland大学の内視鏡外科医のKarl Zuckerが開発したことがこの名前の由来です。
ライトアングル
ライトアングル(right angle)は直角という意味です。
メリーランドのひとつの亜型で、先端が直角に湾曲しています。
ちなみに、いわゆる普通のメリーランドは弱弯(じゃくわん)なので、それに対して、ライトアングルのことを強弯(きょうわん)と呼ぶことも多いです。
普通に日本語で『直角』と呼ばれることもあります。
ライトアングルは、血管の裏の剥離などでよく使われます。
ナターシャ(Natasha)
ナターシャは剥離鉗子です。
細くて先が鋭く尖った形状のジョーが特徴です。
ナターシャは、ロシアなどスラブ系によくある古典的な女性の名前です。(日本で言えば花子みたいなもの)
細くてカクカクした形状を、女性の細い指に例えたのが名前の由来です。
先端がかなり鋭いので、正直なところ純粋に必要なシーンはあまり多くないです。(メリーランドで代用可能なことがほとんど)
ナターシャの方がメリーランドより良いシーンとしては、胃切除です。
特に6番の郭清。膵頭部付近の細くて裂けやすい静脈の隙間の剥離をする時には重宝します。
メリーランドのように、ジョーを開いて隙間を広げるというよりは、隙間に優しく差し込んでツンっと通すように使われます。
メッツェンバウム(Metzenbaum)
ハサミです。
組織を切ったり、縫合した糸を切るために使用されます。
ラパロ用のハサミは開腹用のようにあまり種類がないので、腹腔鏡手術の時にハサミと言えばメッツェンバウムです。
大抵はメッツェンと略して呼ばれます。
名前は、開発者の口腔や再建を専門としていたMyron Firth Metzenbaumからつけられました。
まとめ
最後に、この記事の内容のまとめです。
名称 | 役割 | 特徴 | 由来 | |
バブコック | Babcock | 無傷性把持 | 隙間のある大きなジョー | 開発者名 |
クローチェ | Croce | 無傷性把持 | 先端の屈曲した丸っこいジョー | 開発者名 |
ヨハン | Johan | 無傷性把持 | 両開きで先端が丸っこい直線的なジョー | not found |
マンチーナ | Mancina | 無傷性把持 | 先端が細く把持力が強いジョー | イタリア語で左利き |
ドベイキー | DeBakey | 無傷性把持 | 横溝に加え横溝のついたジョー | 開発者名 |
メリーランド | Maryland | 剥離 | やや鈍な先の細いジョー | 開発者の所属した大学の名前 |
ライトアングル | right angle | 剥離 | 直角に曲がったジョー | 英語で直角の意味 |
ナターシャ | Наташа | 剥離 | 細く尖った鋭いジョー | 女性の指に似た形状にちなんで命名 |
メッツェンバウム | Metzenbaum | 剪刀 | ハサミ | 開発者名 |
これだけで、鉗子の受け渡しで余計な迷いやストレスがなくなり、本来の手術操作に集中できるようになります。
腹腔鏡手術の鉗子は色々ありますが、代表的なものを覚えておけば大丈夫です。
ぜひ日々の診療にお役立てください!
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参考
https://www.olympus-medical.jp/general-surgery/hicura
https://de.wikipedia.org/wiki/William_Wayne_Babcock
https://www.medschool.umaryland.edu/surgery/The-Maryland-Dissector-Newsletter/Archive/Summer-2020/