局所進行直腸癌の今後の治療戦略予想(total neoadjuvant therapy、ctDNA、Watchful wait)

外科
スポンサーリンク

はじめに

臨床病期II期またはIII期の直腸癌を、局所進行直腸癌(locally advanced rectal cancer : LARC)と呼ぶ。
局所進行性直腸癌の治療は3つの柱によって行われる。
3つの柱とは、すなわち、化学放射線療法、手術、化学療法である。

局所進行直腸癌(LARC)の治療の歴史(過去)

手術から手術+術前放射線治療(RT:radiotherapy)へ

Swedish Rectal Cancer Trialで全生存(OS:overall survival)と局所再発率の低下を認めたことで、術前放射線治療が追加された。
また、Dutch trialで、直腸間膜全切除(TME : total mesorectal excision)vs TME+RTが検討され、ここでも術前放射線治療を追加した群で、局所再発率の低下が認められた。

術前放射線治療(RT)から術前化学放射線治療(CRT)へ

FFCD9203試験で、術前放射線治療と術前化学放射線治療が比較され、5FU/LVと放射線によるCRT群で局所再発率の低下が認められた。しかし、全生存期間には差がないのが課題であった。

EORTC22921試験では、術前CRT・術前RTと術後CRT・術後CRTの2×2の比較がされたが、術後補助療法の効果が示されず、術前治療の強化への流れが生まれた。

術前CRTのレジメン変化 カペシタビン(Cape)追加

NSABP R-04試験で5FU/LVに対するCapeの非劣性が示され、Capeが標準治療に加わった。
しかし、ここまでのいずれの試験においても、術前治療は、局所再発率の低下は示すものの、全生存(OS)の延長にはつながらなかった。

オキサリプラチン(L-OHP)の追加

STAR-01試験では、術前に5-FUを用いたCRTをする際のL-OHPの併用効果が検討された。Grade 3-4の有害事象が増えたものの、L-OHP併用により、病理学的なM1症例の割合の減少した。そのため、遠隔微小転移に対するL-OHPの上乗せ効果が期待された。

術前と術後での補助化学療法の比較

Spanish GCR-3試験で、術前化学放射線治療の前の導入療法(induction chemotherapy)としてCAPOXを投与する群と術後補助化学療法としてCAPOXを投与する群とが比較された。その結果、両群で36ヶ月時点のOSに差はなかった。ただし、術前治療の方が、術後治療より急性毒性が低く、コンプライアンスが良かった。そのため、術後補助化学療法よりも術前に全身治療を行うことが有望であると考えられた。

total neoadjuvant therapy(TNT)の登場

このような経緯から、局所再発の制御も大切ではあるものの、微小遠隔転移を制御することこそがOS延長のために重要であることが認識された。そのため、微小遠隔転移を対象とした効果的な全身治療の最適化のために、手術前に化学放射線療法(CRT)と化学療法(CT)を行うtotal neoadjuvant therapy(TNT)という概念が開発された。
total neoadjuvant therapyの利点として、
Total neoadjuvant therapyの登場により、いかに微小遠隔転移をコントロールするかという点に関心が向き、最適な補助療法のレジメンがさらに検討されることとなった。

局所進行直腸癌(LARC)の治療の現在

このような歴史的な背景を踏まえた上で、現在の標準治療をガイドラインから見ていこう。(ガイドラインは各種のエビデンスを基に作られるため、最新の研究結果からは数年のブランクがあることに注意が必要である)
現在のガイドライン では、局所進行直腸癌は局所の制御に重点が置かれている。
局所再発率を低下させる目的で、欧米では術前化学放射線治療、日本では側方郭清が推奨されている。

側方郭清(LLND)の意義は?

ここで側方郭清について。
側方郭清は日本で推奨されている手術手技である。
局所再発を抑制する効果が示されており、ガイドラインでも、腫瘍下縁が腹膜反転部より肛門側にあり,かつ固有筋層を超えて浸潤する症例には側方郭清が適応となっている。
しかし、JCOG0212で、側方郭清を追加しても、術後合併症,排尿障害,性機能障害の発生頻度には有意差がないとされたが、追加で侵襲を加える以上は全くリスクがないとは言い切れない。
何より、側方郭清も、術前化学放射線治療と同じく全生存の延長効果は見られていない。
化学放射線治療との直接比較や組み合わせなどの検討は必要かと思われるが、「局所の制御重視から、早期の微小遠隔転移の制御重視」という、これまでの歴史的な流れを見る限り、今後、「予防的」側方郭清の意義は乏しくなってくるのかもしれない。

局所進行直腸癌(LARC)の治療の未来

Total Neoadjuvant Therapy(TNT)が標準治療になる可能性

早期の微小遠隔転移の制御重視という流れから、今後total neoadjuvant therapyが主流になっていくことが予想される。
ひとまずの課題としては、

  • 最適なレジメン(薬剤の組み合わせ、投与期間、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の有無)の選定
  • 化学療法を化学放射線治療の前に行う(induction chemotherapy)か後に行う(consolidation chemotherapy)のどちらが優れているか

などの検討かと思われる。

PRODIGE 23試験の衝撃

2020年にPRODIGE 23試験の結果が報告され、total neoadjuvant therapyの有効性が広く認知された。
PRODIGE 23試験は、T3-4直腸癌に対する術前治療を検討した試験である。
化学放射線治療 vs total neo-adjuvant therapyの比較をしている。
total neoadjuvant therapyは、CR(complete response)を有意に増やし[31.8% vs 47.6%(p=0.003)]、所属リンパ節転移を有意に減らした[ypN0 67.4% vs 82.6%(p<0.001)、ypT0N0 12.1% vs 27.8%(p<0.001)]。
3年DFSは、total neoadjuvant therapy群で有意に良好だった[(HR 0.69, 95% CI 0.49-0.97, p=0.034)。 68.5% (CI: 61.9-74.2) vs 75.7% (CI: 69.4-80.8)]。
さらに、ここが重要な点であるが、total neoadjuvant therapy群で有意に3年DFSおよび、3年無転移生存率が良好であった。[それぞれ(HR 0.69, 95% CI 0.49-0.97, p=0.034)および、[71.7% vs 78.7% , (HR 0.64, CI 0.44-0.93, p<0.02)]
局所再発は有意差はないが、total neoadjuvant therapy群で少ない傾向が見られた。
術後補助化学療法の遅れの少なさ、QOLの差のなさ、手術への悪影響の少なさなども劣る点は乏しく、総じて、total neoadjuvant therapyの方が優れていた。
全生存は時間が短く未成熟であったが、3年DFSおよび、3年無転移生存率が良好であったことから見て、おそらくついに全生存を延長するものと思われる。

ctDNAで治療の個別化がさらに進む可能性

ここで少し話が変わるが、近年ctDNAという強力なモニタリングツールが開発された。
ctDNAは、循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA)のことで、血液中に循環している腫瘍細胞のDNAを、血液や尿などのから増幅させ、検出する、体細胞遺伝子検査である。
以下のような効果が期待される

  • スクリーニング検査として行い、癌を早期発見する
  • 術前治療後に測定し、手術前に残存腫瘍の有無を判定する
  • 術後に行い、術後補助化学療法の要否の判定やレジメン選択に役立てる
  • 再発の早期発見を行い、化学療法の早期導入や早期レジメン変更に役立てる
  • 術前治療や手術後に測定し、予後予測を行う

Watchful waitという戦略がひとつの標準治療になる可能性

ctDNAとtotal neoadjuvant therapyとを組み合わせることで、新たな治療戦略が標準治療となる可能性がある。
それがWatchful waitである。
Watchful waitは、non-operative managementの一種で、術前治療後にCR(complete response)が得られた症例に対しては、手術をせずに経過観察するという戦略である。
術前治療によってCR率は2〜3割ほどが見込める。場合によってはさらに高くなることもあり得る。
CRが得られた患者では、手術せずに癌が治る可能性があるため、手術による合併症やQOLの低下が避けられるとすれば、そのメリットは大きい。
この戦略の肝であるCRの判定が難しいのが問題であったが、ctDNAを用いれば、かなり高い精度でCRを判定できると言われるため、より良い患者選別に繋がることが期待される。
現在イタリアで、total neoadjuvant therapyとctDNAを組み合わせて、術前にCRが得られた症例に対する手術とWatchful waitの比較試験(NO-CUT trial)が行われているのでその結果に注目である。

まとめ

局所進行直腸癌の治療は、局所再発の制御から早期遠隔転移の制御に重点が移行しつつある。その目的は、全生存率の改善である。

total neoadjuvant therapyによって全生存が改善する可能性が示されつつある。

total neoadjuvant therapy、ctDNAを組み合わせたWatchful waitという戦略で、一定数の局所進行直腸癌は手術せずに治す時代が来る可能性がある。

外科
スポンサーリンク
シェアしてみんなにも教えてあげましょう!
Yasuのフォロー・応援をお待ちしています!
目指せ、トップナイフ!〜消化器外科医のブログ〜

コメントで一緒に記事を盛り上げましょう!

タイトルとURLをコピーしました