妊婦にCTは可能?急性虫垂炎を疑う場合の画像検査戦略

妊婦 CT外科

妊娠中の急性虫垂炎の罹患率は、非妊娠時に比べて低いです。
ただし、妊娠中に発症する急性腹症の中で最も頻度が高いのが急性虫垂炎です。
今回は、妊婦で急性虫垂炎が疑われる場合の画像診断の戦略について学びましょう。

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妊婦の急性虫垂炎の診断は画像検査なしでは難しい

妊娠中の急性腹症では、急性虫垂炎の頻度が最も高く、診断を画像検査に委ねられることも少なくありません。
妊婦では、虫垂穿孔や汎発性腹膜炎などを併発すると、流産や早産や母体敗血症などが増加してしまいます。そのため、早期の診断・治療が重要になります。
しかし、妊婦の診断は難しいのが現状です。
非妊婦と異なり、妊婦では、正常でも白血球が増加しており、嘔気・嘔吐がしばしば見られ、これらの所見が異常かどうか判断しにくいと言う背景があります。
また、妊娠週数が進むにつれて、腹部の診察所見の判定は困難となります。子宮が増大することで腹部の臓器の場所が変異することも、妊婦の急性腹症の診断を難しくする原因となっています。
これらが原因で、妊婦の急性虫垂炎などの急性腹症では、画像診断が重要な役割を担うというわけです。

妊婦の画像検査の一般的な戦略

妊婦の急性腹症の画像診断で、超音波が第一選択であることに疑問の余地はありません。
しかし確定診断が得られない場合、その後の検査をMRIやCTのいずれにすべきか、現在では臨床現場の判断に委ねられていることが多いです。

妊婦の急性腹症の画像診断で、検査の優先順位は欧米の主要なガイドラインで共通です。

  1. 超音波
  2. 単純MRI (超音波で診断困難な場合。造影MRIは有効性に乏しく避ける)
  3. 単純もしくは造影CT(MRIで診断が困難な場合、時間やシステムの問題でMRIが実施できない場合。被曝に配慮して行う。造影CTも実施可)

と言う順番になります。

超音波(エコー)

妊娠週数が進み、子宮が増大してくると、体内の解剖学的構造に変位が起こります。
そのため、報告によって様々ですが、妊婦の急性虫垂炎を超音波で診断するのは比較的困難です。
妊婦における急性虫垂炎の超音波診断のについては、88% ・ 96% ・ 92%で虫垂が同定できず診断不能であったと報告されています。
Butala らの前向きコホート研究で、超音波の感度・特異度は第1・第2・第3妊娠周期ではそれぞれ40% ・ 33% ・ 0%と報告されています。
つまり、妊娠周期が進むに連れて超音波での診断がより困難になると言うわけです。
このように妊娠が進むにつれて超音波の診断能が低下する急性虫垂炎は、追加の画像検査が必要となることが多くなります。

単純MRI

被爆の心配がなく、客観的な診断法として、MRIの有用性が期待されています。

妊婦においてMRIの有用性の報告はまだ限定的で、少数の後方視的研究があるに過ぎません。既存の報告では、妊婦の急性虫垂炎に対するMRIの感度は90〜100%、特異度は93〜98%と報告されています。
このように、MRIはまずまず良い診断能力を有すると考えられていますが、その診断能の厳密な評価や、他の検査モダリティーとの比較は行われていません。
Pedrosa らは、超音波での感度、特異度はそれぞれ36% ・ 99%であったのに対し、MRIは100% ・ 93%であったと報告しています。
また、MRIでは陰性的中率が100%で、急性虫垂炎を否定することに優れていると報告しています。
造影MRIは、診断に有用と言う報告もなく、造影剤が胎児への移行もするため、実施すべきではありません。
ただし、一方で、CT大国日本では、緊急時にMRIを実施するよりも、CTを実施することの方が容易である場合が多いです。

単純または造影CT

実際にCTを選択すべき状況と言うのはどのような状況でしょうか?
European Society of Urogenital Radiology (ESUR)の推奨では、『重篤な外傷患者において必要な場合、CTを実施することをためらうべきではない』とされています。
つまり、『妊婦や胎児の命に関わるリスクが疑われる場合言うには、被曝のリスクがあっても短時間での診断・治療を優先すべきである』ということです。
大切な事は、いつもリスクとベネフィットのバランスを考えて、より適切な検査を模索すべきであるということです。
CTを実施する際には、必要であれば造影を行っても良いです。

CTでの被曝量と胎児への影響について

受精後 1 〜 2 週までに被曝した場合、胎芽は流産となるか完全に修復されるかのいずれかとなるため、この時期の被曝は奇形のリスクとなりません。
妊娠 4 〜 10 週での器官形成期における被曝では奇形発生率上昇の可能性があります。また、妊娠 10 〜 27 週(特に 17 週まで)の胎児中枢神経系の細胞分裂が旺盛な期間 での被曝では中枢神経障害を起こす可能性があります。
そのような障害が起こる閾値は『100mGy』とされています。
産婦人科診 療ガイドラインやACOG(American College of Obstetricians and Gynecologists)ガイドラインでは、安全域を見込んで、『50mGy を許容しうる線量』としています。通常の撮像条件による1回の CT 撮影でこの線量に達することはな く,確定的影響は問題になりません(一般に、胎児のいる骨盤部のCTでも、胎児の被曝線量は25mGyと言われています)。
ただし、(もともとの自然発がん率が非常に低いので,個人レベルでの発癌リスクは統計的にはっきりしない程度と相当に低いものの、)確率的影響は完全には避けられないので、線量は可能な限り少なくする努力は怠らないようにしたいものです。
そのため、明らかに造影CTの診断能の方が高いと考えられる場合には、単純CTを省略して、造影CTのみを行うことが推奨されます。また、逐次近似法を用いた低線量CTなど、被曝低減のテクニック可能な限り応用すべきであると考えられます。

まとめ

①妊婦の急性腹症の画像診断において、まずは超音波を優先して実施すべきです
②超音波で診断が困難な場合には、単純MRIを実施することが推奨されます
③単純MRIでも診断が困難な場合あるいはMRIが施行できない場合には、CTを施行することを考慮しても良いです。必要があれば造影CTを行っても良いです。

必要な場合は、CTを行うことをためらうべきではありません。

一般的な条件でのCTの被曝線量は、胎児の発がんリスクを上昇するほどにいは至りませんが、可能な限り被曝線量を低減する努力は怠るべきではありません。

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