この記事では、
こんな疑問に答えます。
はじめに結論のまとめです。
- 内側 正中まで。(恥骨結合,Cooper 靭帯,腹直筋背側まで)
- 腹側 腹直筋背側,下腹壁動静脈,腹横筋まで
- 外側 上前腸骨棘まで
- 背側 精巣動静脈・精管と腹膜とを十分に剥離している
この記事を読めば、TAPPの腹膜フラップの剥離範囲が明確になり、きれいにメッシュが展開できるようになります。
ぜひ最後まで読んでみてください。
前方アプローチ法と比較したTAPPのメリット
TAPPは、前方アプローチと比較して、以下の特徴があります。
- 腹腔内から気腹下で直接観察できるため、診断能力が高い
- 膜構造の破壊が最小限のため、術後疼痛や違和感が少ない
しかし、ちゃんと理解できていなかったり、手技が下手だったりすると、メッシュがうまく展開できず、再発のリスクとなってしまいます。
まず、いかにしてTAPPによる鼠径ヘルニア修復術の後に、鼠径鼠径ヘルニアが再発するのかを知っておきましょう。
TAPP後の再発の原因は腹膜剥離不足
術後再発の原因は主に以下の2つです。
- メッシュでmyopectineal orifice(筋恥骨孔)が十分に被覆できていない=「オーバーラップ不足」
- メッシュがまくれ返る=「メッシュの展開不良・固定不良」
オーバーラップ不足による再発を防ぐためには、myopectineal orifice(筋恥骨孔)を、メッシュで3cm以上オーバーラップさせることが必要です。
メッシュの展開不良による再発を防ぐためには、メッシュを十分に展開できるだけのスペースを剥離しておくことが必要です。
メッシュの固定不良による再発を防ぐには、下腹壁動静脈の両脇、腹直筋外縁、メッシュの外側腹側縁、Cooper靭帯への適切なタッキングが必要です。
いずれにしても、十分な腹膜剥離が再発予防のための絶対的な必要条件となります。
というわけで、「十分な」腹膜の剥離範囲とは一体どれくらいのなのかを知っておく必要がありそうです。
myopectineal orifice(筋恥骨孔)とは
筋恥骨孔とは、
- 内鼠径輪(深鼠径輪)
- ヘッセルバッハ三角(腹腹直筋の外側縁・鼠径靱帯・下腹壁動脈に囲まれた領域=内側三角)
- 大腿輪
を合わせた領域のことです。
この筋恥骨孔は、腹壁が脆弱な部位です。
そのため、これらはそれぞれ、
外鼠径ヘルニア(間接鼠径ヘルニア)
内鼠径ヘルニア(直接鼠径ヘルニア)
大腿ヘルニア
のヘルニア 門となります。
TAPP法で推奨される腹膜剥離範囲
- 内側方向は腹直筋外縁から3cm以上内側
- 腹側方向は内鼠径輪上縁より3cm以上腹側
- 外側方向は上前腸骨棘のすぐ内側まで
- 背側に関しては、内側方向では「精管と内側臍襞が交差する部分」、外側方向では 「十分に広い範囲まで」もしくは「内鼠径輪下縁から4cm程度まで」などとされています。
これらのことから、以下のような剥離範囲を意識しましょう。
内側の剥離
内側は、
- 外鼠径ヘルニア(間接鼠径ヘルニア)なら正中まで
- 内鼠径ヘルニア(直接鼠径ヘルニア)なら正中を超えるまで
剥離しましょう。
まずは恥骨表面で正中まで到達しましょう。
直接鼠径ヘルニア(内鼠径ヘルニア)の場合は、さらに正中を超える範囲まで剥離を行うことが必要になります。
(その際には反対側のクーパー靭帯が見えるまで剥離するという意見もあります)
時々、下腹部正中の皮膚を押さえて、正中の位置を確認します。
(ここは後からやりますが)メッシュの形状的に、内側腹側(画面上側)も広く剥離する必要があります。
最終的には、腹直筋外縁を超えて正中付近まで腹直筋と腹膜との剥離を行います。
外側の剥離
外側の目標は上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)です。
外側は上前腸骨棘内側の皮膚を押さえ、位置を確認し、上前腸骨棘のすぐ内側まで剥離範囲を広げましょう。
※外側では、深い層に侵入すると術後疼痛の原因になります。
確実に腹膜だけを剥がして下さい。
腹側の剥離
腹側は内鼠径輪腹側縁から3cm以上剥離します。
後のメッシュの展開も考えると4cmは剥離したいところです。
腹側の剥離はけっこう難しいです。
腹膜と腹膜前筋膜が鈍的に剥離しにくく、鋭的剥離を要することが多いので、腹膜を破らないように慎重に剥離してください。
背側の剥離
背側内側ではCooper靭帯より背側2cmを目標に膀胱との間の剥離を行います。
背側外側では、内鼠径輪背側から3〜4cm程度を目安に剥離を行います。
精管や精巣動静脈との間の剥離が甘くなりやすいので、そこは徹底的に剥離します。
目安としては、腹膜を引いても、精管が腸骨恥骨靭帯 (ilio-pubic tract) から浮いてこない程度です。
背側は、出血や痛みの発生などの原因となりやすい部位であることは覚えておきましょう。
「後腹膜側から腹膜を剥がす」というよりは、「腹膜に沿って、腹膜にくっついてくる線維を腹膜から剥がす」という意識で剥離していきます。
メッシュがまくれ返ることを予防するためには、特に背側の十分な剥離が必要です。
メッシュ挿入前に確認・微調整
一部の剥離が進むと、別の所の剥離がさらに進むことも多いです。
ある程度剥離できたかな、と思ったところで、腹膜フラップを引っ張りながら全体を眺めてみて、目標ラインを超えていないところがあれば剥離を追加します。
ちなみに、理論的にはメッシュは15×10cm以上を使用すべきです。
特別小さい女性などでもない限りは、筋恥骨孔全体を3cm以上のマージンを確保してカバーするために、15×10cm以上のメッシュを使用しましょう。
最初は剥離範囲が足りずにメッシュ留置に苦労すると思いますが、じきに慣れると思います。
メッシュ挿入後に妥協しない
メッシュが以下の状態にあればOKです
- 筋恥骨孔が覆えている
- シワがない
- ピタっと奥の面に密着している
- 腹膜フラップを閉じても、端が浮かない
メッシュを挿入してみて、うまく展開できなければ、無理せず、諦めて腹膜剥離を追加してください。
メッシュの端に切り込みを入れてごまかすことは絶対にやめて下さい。
『十分な』腹膜剥離がなされていれば、メッシュが展開できないということはありえないと肝に銘じましょう。
3cmってどれくらい?
厳密に測定するならば、糸を3cmに切って、メジャー代わりにします。
簡易的にササっと測定する方法もあり、こっちの方がオススメです。
鉗子のジョーを開いた時の先端の距離がだいたい2.5〜3cmなのです。
鉗子を開いて、ヘルニア 門からの距離の目安にします。
まとめ
最後に、この記事の内容のまとめです。
この記事があなたの手術の役に立てば幸いです。
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参考
https://www.shimane.med.or.jp/files/original/20190930154433189cfed537f.pdf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6368153/
http://surg2-hokudai.jp/group3/img/tapp_checklist.pdf
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34846592/