ミラノ基準(Milan基準)を超えた肝細胞癌の切除が有効な可能性

外科
Diseased human liver on science background. 3d illustration

Annals of Surgeryに現在の標準治療では切除適応とはならない肝細胞癌(HCC)の手術の可能性が検討された興味深い文献が掲載されていたのでシェアです。

Overall Tumor Burden Dictates Outcomes for Patients Undergoing Resection of Multinodular Hepatocellular Carcinoma Beyond the Milan Criteria

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現在の標準治療

肝細胞がん(HCC)は最も一般的な原発性肝悪性腫瘍である。
集学的な治療が行われているものの、依然として外科的切除がHCCの唯一の根治的な治療選択肢であると考えられている。
日本の肝癌診療ガイドライン(2017年版) では、腫瘍数が4個を超えるものは、非手術療法(経動脈化学塞栓療法(TACE)や化学療法など)が推奨されている。

肝細胞癌 治療アルゴリズム

肝癌診療ガイドライン(2017年版)記載の治療アルゴリズム

適応拡大が有効な可能性

しかしながら最近では、HCCの切除基準の拡大が示唆されている。また、ミラノ基準を超えるようなHCC患者(2~3個の3cm以上の結節や、4個以上の多発結節)に手術した場合、他の局所治療と比較して、より大きな利益をもたらす可能性があることを示唆する報告もある。
そのため、手術によって最も利益を得ることができる、ミラノ基準を超えた多結節性HCC患者を、選別する必要がある。

ミラノ基準とは

1996年、ミラノにある肝移植チームが、提案した肝移植の適応基準。
48例の肝細胞癌症例に死体肝移植を施行して、摘出肝で調べた肝細胞癌の大きさと数が患者の予後と対比させた結果提唱された基準。
ミラノ基準とは、

  • 血管とリンパ管内への腫瘍細胞浸潤がない
  • リンパ節および他臓器に転移がない

ということが前提条件で、

  1. 単発癌であれば直径が5センチ以下
  2. 多発癌であれば、すべて直径が3センチ以下で数は3個まで

とする基準である。

全世界で適用され、肝細胞癌肝移植の治療成績を大幅に向上させた。
ミラノ基準を満たす35例と基準を超えた13例を比較しますと、4年生存率は85%対50%であった。
ちなみに、日本のガイドライン では、前掲された図ように、手術適応の前に肝硬変の程度でアルゴリズムが分岐するため、根治切除術の適応とは直接は関係しない。

予後因子の候補

手術候補の最適な選択は、最良な転帰を得るために非常に重要である。手術で予後の改善が得られる可能性が高ければ手術が推奨されるし、手術の効果が期待しづらい患者に手術を行うことはなるべく避ける必要がある。
これまで、多結節性HCC患者の転帰の予測因子として、腫瘍の大きさと病変数、腫瘍の分化、肝硬変、微小血管浸潤などの臨床病理学的因子が同定されている。
このように、術前の肝機能、患者のパフォーマンスステータス、腫瘍の生物学的状態を徹底的に評価する必要がある。

腫瘍負担スコア(tumor burden score : TBS)

そこでTBSが選択のためのひとつの基準として提案されている。
TBSは腫瘍の数と大きさを考慮した病変範囲の指標である。もともとは大腸癌の肝転移に対する切除術を受けた患者の転帰を層別化する手段として提案されたものである。
TBSは、

"直交平面の原点からの距離である。2つの変数で構成される:最大腫瘍径(x軸)と腫瘍数(y軸)として、(TBSの二乗) = (最大腫瘍径の二乗) + (腫瘍数の二乗) "

と定義されている。

TBSがミラノ基準を超える多結節性HCCの予後を予測する助けになる可能性が示された

そこでTBSと予後との関連が検証された。
2000年から2017年の間にHCCに対する切除を受けた患者が、国際的な多施設データベースから同定された。
患者はミラノ基準のステータスに従って分類され、ミラノ基準を超えた多結節性HCC患者のうち、TBSを含む術前および術後の全生存(OS)予測モデルが開発された。
術前TBSモデルは、患者のパフォーマンスステータス(すなわちASAクラス)、肝機能(すなわち肝硬変)、腫瘍生物学(すなわち術前のAFPレベル)、腫瘍負担(すなわちTBS)が考慮された。
また、術後モデルは、腫瘍の悪性度やリンパ管浸潤などの病理学的データが考慮された。

そして、この予測モデルと予後との関連の検証が行われた。

結果

その結果は、以下の通りだった。
HCCの切除を受けた1037人の患者のうち、164人(15.8%)がミラノ基準を超える多結節性HCCを有していた。
多結節性HCC患者のうち、25例(15.2%)が重篤な合併症を経験し、90日死亡率は3.7%(n=6)であった。
ミラノ基準を超えた多結節性HCCの切除後の5年全生存率は52.8%であった。
術前TBSモデル(5年全生存率:低リスク73.7、中リスク45.1%、高リスク13.1%)と、術後TBSモデル(5年全生存率:低リスク80.1%、中リスク37.2%、高リスク未到達)は、患者の明確な予後を予測した(いずれもP < 0.001)。
TBSは、ミラノ基準を超えた多結節性HCC切除後の5年OSと患者を相対的に層別化することができた(c-index. 0.65;5年生存率;低TBS:70.2% vs 中TBS:54.7% vs 高TBS:16.7%;P < 0.001)。)
低・中等度TBS患者の大多数は、術前リスクスコア(98.4%)と術後リスクスコア(95.3%)の両方で、低・中等度リスクと判断されていた。


表1. ミラノ基準を超える多結節性HCC患者の特徴


表2:ミラノ基準を超えた多結節性HCCの根治的肝切除を受けた患者における生存率と関連する因子のCox回帰分析(n = 164


図2:試験データセットの術前(A)および術後TBSモデルに基づいて、ミラノ基準を超える多結節性HCCを有する低リスク、中リスクまたは高リスクの患者におけるOSの差を示すカプラン・メイエル曲線(Kaplan-Meier曲線)。HCCは肝細胞癌を示す;OSは全生存期間;TBSは腫瘍負担スコア。


図3:外部検証データセットにおける術前(A)および術後のTBSモデルに基づいて、ミラノ基準を超える多結節性HCCを有する低リスク、中リスクまたは高リスクの患者におけるOSの差を示すカプラン・メイエル曲線。HCCは肝細胞がんを示す;OSは全生存期間;TBSは腫瘍負担スコア。


図4. 試験データセットの術前(A)および(B)術後TBSモデルに基づいて、ミラノ基準を超える多結節性HCCを有する低リスク、中リスクまたは高リスクの患者における早期再発(2年以内の再発)の累積発生率の差を示すKaplan-Meier曲線。HCCは肝細胞がんを示す;TBSは腫瘍負担スコア。
ミラノ基準を超える多結節性HCC。短期的な転帰


表3:ミラノ基準を超えた多結節性HCC切除術を受けた患者の周術期成績をTBSの低・中・高で分類した場合
ミラノ基準を超える多結節性HCC。TBSの長期予後への影響


図5. 術前(A)と術後(B)のTBSモデルに基づくリスク群別のTBSの分布。TBSは腫瘍負担スコアを示す。

結論

これらの結果から、
ミラノ基準を超えた多結節性HCCで、TBSが低または中程度の患者では、肝切除を検討すべきであると結論された。

コメント

これまでのところ、ミラノ基準を超えた多結節性HCCの切除で最も恩恵を受ける可能性のある患者の特定と層別化は不十分であったが、今回の研究は、ミラノ基準を超えた多結節性HCCの切除を受けた患者の5年全生存率が52.8%と、TACEによる治療を受けた多結節性HCC患者の過去のコホートよりも良好であったことを実証した点が重要だった。
TBSは術前・術後の両モデルとも、長期転帰の予測因子として優れており、TBSが1単位増加するごとに死亡のハザードが12%高くなっていたことも見逃せない。
今後の大規模な比較試験などが期待される。

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